第76章 清新
流れていく景色は、大都会。
街はキラキラと煌めいて、でも涼太と見た星空とは違って、無機質な光で溢れている。
こんなに明るいのに、温かさを感じるどころか、逆に冷たくて。
不思議だな……。
「赤司さん、本当にいいんですか? 何か用事があったんじゃ……」
「いや、もう帰るところだったからね。これ、そろそろいいんじゃないかな」
「ありがとうございます、わあ、満タン」
豪華な赤司家の高級車の後部座席に乗せて貰って、車内で充電をさせて貰っちゃって。
赤司さんが持っているタブレット端末と同じ端子で良かった。
まさに至れり尽くせりで申し訳ないというか。
明らかに困り果てている私を見兼ねて、赤司さんが車で送ってくれると言ってくれた。
運転手さんにまでご迷惑をお掛けしてしまって、申し訳ない。
ケーキ屋さんにダメ元で電話をしてみたら、お店はもう閉じてしまったけれど、予約のケーキは既に用意してあるので、来て貰えれば受け取り可能だと言ってくれた。
図々しくも、ケーキ屋経由の涼太宅行きである。
でも……こんな偶然って、ある?
……いや、考えても仕方ないよね。
とにかく本当に助かった。
ありがとう以上の言葉があればいいのに。
「体調は、どうかな」
「あ、この通り、お陰様でなんとか」
退院した後、時々はメールのやり取りをしていたけれど、こうして会うのは何ヶ月かぶりの事だった。
彼も、大学に通う傍らでお父さんのお仕事を学んだり手伝ったりと多忙な身だ。
「最初はね、声を掛けようか迷ったんだ。俺に会う事で、嫌な事まで思い出してしまうんじゃないかって」
「そんな事、ないです。赤司さんには本当に感謝しかなくて……」
彼があの時助けてくれなかったら、きっと今頃インターネット上に動画が出回って、不安で外も歩けなくなってしまっただろう。
どこを向いて行けばいいのか、ちゃんと考える事が出来たのはその後の病院でのケアや特別な計らいのお陰だ。
「強いね、君は」
「強い……?」
思っていた事と真逆のことを言われて。
弱い自分を奮い立たせていたばかりだったのに。
「君が黄瀬のパートナーで、本当に良かった」