第76章 清新
電車は発車する事なく、ホームに留まり続けている。
絶え間なく流れ続ける、駅員さんのアナウンス。
車内の座席に座り続けたまま運転再開を待つひと、足早に他の方法で移動しようとするひと。
ホームから見える駅前のロータリーにあるバス停やタクシー乗り場には、既に長蛇の列が出来ていた。
どうしよう、まずはケーキのお店に電話……って、電池切れてるんだった!
公衆電話で……って、電話番号わからないよ!
痴漢に遭ってしまったショックもおさまらぬまま、引き続き頭の中は大パニック。
とにかく、お店に向かおう。
でも、どうやって?
バスもタクシーも、乗れるまでには相当時間がかかりそう。
悠長に待っている時間はない。
涼太に会えても、また22時半の電車で帰らなくちゃいけないんだから。
改札口を出て、券売機の上にある路線図を見ても、この駅には他の線が通っている気配がない。
どこか、近くの大きな駅に出ないと。
どうしよう。
落ち着いて。
そうだ、少し歩いて大通りからタクシーに乗ろう。
駅にある地図を頭に叩き込んで、大通りの方向へ向かう。
大丈夫、諦めなければ、なんとかなるはず!
まずは落ち着かないと、解決出来るものも出来ないよ!
5分ほど歩いて、大通りに出た。
トラックなどの大型車両の通行も多い、車線の多い国道で、タクシーも沢山走っている。
タクシーは次々と駅前ロータリーに入ろうと、交差点から並んでいる状態。
電車が止まってしまっている今は、正に書き入れ時だろう。
どうしよう、信号を渡って向こう側に行った方がいいのかな。
乗れそうなタクシーを、なんとか捕まえないと……!
走り出した途端、ブワッと強い風が吹いた。
生地の薄いスカートがふわりとめくり上がりそうになり、慌てて両手で上から押さえる。
……押さえたスカート、乾いた布の感触のはずが、手に触れたのは湿った感触。
雨も降っていないのに、濡れちゃった?
やだ、なんか汚れちゃったかな。
見てみると、ちょうどお尻の下の辺りが湿っている。
ぬるりと手についた、白く粘度のある液体。
独特の臭い。
これ、これって……
頭が、真っ白になった。