第76章 清新
すぐに涼太に、出るのが遅れてしまう旨のメッセージを送った。
なんで、よりにもよってこんな日に。
ううん、仕方ない。彼女が戻らないのが心配だ。
1秒でも早く戻って来て、すぐに向かおう。
彼女に会えたらその足で駅に向かえるよう、着替えて荷物を持って、飛び出した。
気合いを入れて履いてきたヒールのあるサンダルが、かかと部分の皮を容赦なく削ぎ取っていく。
今日の為にと買ったけれど、やっぱりもう少し履き慣らしておくんだった。
安物は足に良くないんスよ、なんて怒られちゃうかもしれない。
……なんでもいい、早く会いたい。
ズキズキと響く痛みのせいで、歩く速度が遅くなってしまう。
ポーチから絆創膏を取り出して、患部に数枚貼り付けた。
これでもう、大丈夫。
駅前の本屋へ顔を出しても、いない。
レジで、予約した本を受け取りに来たかを訪ねたけれど、交代したばかりの店員さんで、数時間前の事は分からないとの事だった。
受付に置いておく飴は、どこに買いに行ったんだろう?
スーパーかな。
駅を越えた所にあったはず。
行ってみよう。
携帯電話がないって、本当に不便だ。
昔……携帯電話が無かった時代は、どうやって連絡を取り合っていたんだろう。
それとも、便利さに慣れてしまっているだけなのかな……?
結局、スーパーや近隣のお店を探しても見つからない。
整骨院に連絡しても、まだ戻って来ていないとの事。
時間は既に17時を過ぎている。
どうしよう。
日が落ちてしまったら、もっともっと探し辛くなる筈。
早く見つけないと!
そう思って踵を返すと、目の前に……探していた彼女が居た。
ううん、正確に言うと、正面からこちらに向けて走ってくる。
「あ! 神崎さ〜ん!」
私達がこんなに心配してるのなんて、全く予想も付いていないという顔で。
「さ、探してたんですよ! どちらまで行かれてたんですか?」
「あ〜、ごめんなさ〜い。
ちょっと、新作がショーウィンドウに飾られてたから、つい気になって」
「……へ?」
「試着して、迷ってたらこんな時間に〜」
え、ええええええええ?
な、なにそれ!?
……な、なぁんだああああ……
がくり、安心して膝の力が抜けた。