第76章 清新
「んで、お前ら結局うまくいってんのか? あ、小堀、それもういいんじゃねえか」
テーブルを挟んで座るツンツン頭は、笠松センパイ。
「まあ、神崎が頑張ってるんだろうな。これか? ん、確かにいい感じ。黄瀬、それ焦げるぞ」
その隣に座るのは小堀センパイ。
「バッチリうまくいってるっスよ! オレ達に距離とかカンケーないし! お、いい焼け具合」
大の男が3人で、目の前のホットプレートに釘付け。
ホットプレートは30個の小さな丸い窪みがあり、窪みの中にはクリーム色の液体が注がれている。
液体から顔を出すのは、紅色の吸盤がついたアレ。
ジュウジュウと生地が焼ける音と共に、ふんわりと甘い卵のような、ダシのような香り。
手には100均で買った専用のピック。
そう、オレの部屋でたこ焼きパーティー……《タコパ》が開催されているのである。
今日、6月18日……オレの誕生日に。
「そうだ黄瀬、誕生日オメデト。これ、俺たちから」
「えっ? 小堀センパイ、いいんスか? 俺たち、って事は笠松センパイも?」
「俺らだけじゃねえぞ、今日は来れなかったけど森山の分も入ってる」
「マジっスか!」
金色のリボンを解いて、有名スポーツショップの名前が入った紺色の不織布の袋を開けると、出てきたのは某スポーツブランドの練習着。
練習着と言っても、質のいいトレーニングパンツは、諭吉1枚では足りないほどの金額だ。
「すげえ! 最新じゃないスか! ありがとうございます!」
「んで、神崎は何時に来るんだよ?」
「ん、19時頃までには着くみたいっス。オレ、途中まで迎えに行くから、も少し早く出るっスけど」
「俺らは夕方には帰るか。小堀、神崎に会ってくか?」
「いや、きっとこの先も試合会場とかで会えるだろうから、いいよ。折角の黄瀬の誕生日に、お邪魔虫だしな」
「へへへ」
楽しみすぎて、頬が緩む。
夜の間だけだけど、一緒に過ごせる。
ホントは1日一緒に居る予定だったんだけど、職場の子の親族の不幸で、みわが夕方まで代わりに入る事になってしまったらしい。
貴重な時間、ゆっくり過ごそう。