第76章 清新
みわとの通話を終え、スマートフォンをそっと撫でる。
人体にフィットするように出来ているビーズが詰まったソファに、身体を沈めた。
今にも泣きそうなみわの声が耳に残ってる。
いや、もしかしたら泣いてたのかも……。
そりゃ、オレだって最初は、寝てるみわを起こそうかななんて思ったけどさ。
でも、あの寝顔を見たら起こせなかった。
あんなに弱々しく横たわるみわを見て、このコがどれだけ大切な女の子なのか、改めて自覚してしまったから。
姿を見ているだけで胸が痛くなるほどの感情を、抑える手段を知らなかったから。
起こして、話をして、微笑みかけられて……みわに必死にそんな事をされたら……自分を抑える自信が、オレにはない。
みわとの約束、オレのくだらない欲望なんかで台無しにしたくない。
オレ、ちゃんと待つっスよ。
好きだから。大事だから。
だから今は、ゆっくり休んで。
風呂に入ってから水分補給をし、みわに教えて貰ったストレッチを試す。
疲れを溜め込んだ身体が、ギシギシと軋むようだ。
それが終わると、駅に置いてあった、とあるチラシを眺めながら、ベッドへと潜り込んだ。
6月なんて、きっとすぐ。
忙しい日々を精一杯過ごしていれば、すぐだ。
今日は朝から移動、観戦、移動……とにかく疲れた。
ハードな練習でガツンとくる疲れとはまた別の種類のもの。
明日も朝早くから練習だ。
どんどんと重くなってくる身体をベッドに預けて目を閉じ、視界を黒に塗り潰した。
みわの柔らかい微笑みが、まぶたの裏に浮かんだ。