第76章 清新
「あき……」
「今までは何にも言わなかったわよ。あんたが自分の意志で行動してる事だったから。でも、身体壊すってんなら、話は別」
あきの強張った表情が表すのは、怒り。
そして……心配。
心配してくれてる、んだ。
「……ごめん、なさい」
私、何やってんだろ。
本当に、自分の事しか考えてない。
自分の事を想ってくれるひとの事、考えてない。
私が今すべき事は、救急外来に駆け込んでから試合会場に急ぐんじゃなくて……ゆっくり、休む事。
そして、明日の決勝戦に行けるようにする事だ。
目先の事ばかりに囚われてしまって、反省しかない。
「……今日は、家で寝る事にするね」
「救急は?」
「……とりあえず、ご飯食べて薬飲んでゆっくり寝るよ、必要なのは栄養と休養だと思うから」
あきも、黒子くんも。
大切な事をちゃんと教えてくれる大切な友達の事、私も大切にしなきゃ。
目先の感情に振り回されちゃダメだ。
何度もそう思っているのに。
あきは全ての家事を代わってくれた。
時折様子を見に来てくれて、汗を拭いたり着替えさせてくれたり。
倒れた事といい、突然の発熱といい……これが、取り返しのつかない事になる可能性だってある。
自己管理の徹底を今まで以上に強く決意した。
なかなか下がらない熱は、ゆっくりと横になっていたら、午後にはだいぶ下がった。
平熱まで、あと少し。
明日には、会える。
試合後、少しでもお話出来るかな。
優勝したら、直接お祝い、伝えたい。
でも、あのファンの数じゃ……迂闊に会場の外でなんて出来ないよね。
駅前に、入れるようなお店あったっけ。
混むかな、試合の後じゃ。
いや、試合疲れですぐ休みたいだろうに、捕まえちゃダメだよね。
でも、少しだけ。
……私、浮かれてる。
涼太の事を考えると、こんなにも心躍る。
夕方、涼太から連絡があった。
……準決勝で敗退してしまったとの知らせだった。