第76章 清新
「……っぷしゅん!」
一瞬会話が途切れた沈黙を破ったのは、私の緊張感のないくしゃみ。
いけない。
夜風で鼻がムズムズして……。
黒子くんは、少し笑いを堪えたように微笑んで。
「すみません、長話をしてしまいましたね。今度、ボクが友人に借りた物を返しに来る時、またお声かけします。その時に都合が合えば、でいかがですか」
「うん、そうしよう」
「送りますよ」
「ううん、帰れるよ。大丈夫」
「そうはいかないでしょう、そんな状態で」
……でも、流石にそこまで迷惑は掛けられない。
うちは駅からそんなに近くないし。
タクシーに乗るから大丈夫とお断りして、駅前で待機していたタクシーにすぐに乗り込んだ。
本当に、これ以上迷惑は掛けたくない。
こうして、車が見えなくなるまで見送ってくれた黒子くんと別れた。
「ただいま。ごめんね、遅くなって」
慣れてきた玄関の匂いを抜けてキッチンへ顔を出すと、あきが料理を温めていてくれているところだった。
「あ、おかえり〜」
初めて、駅からタクシーを使った。
なんて贅沢な! と思ったけれど、降り立ってみると足元がふわふわしている感覚があったので、タクシーに乗って正解だったかもしれない。
あのまま黒子くんに送って貰ってたら、途中で歩けなくなってたかも……。
「はい、召し上がれ。これでその青白い顔が改善されればいいけどね」
そう言いながらあきが配膳してくれたお皿には、レバニラ炒め。
「……分かる?」
「分かるも何も、人形みたいな白い顔して。そんなんじゃいずれ倒れるんじゃないかと思ってたわよ」
すみません。
倒れて迷惑かけてきました。
「あんた、いい加減休みなよ? 明日の予定は?」
「えっと……午前中だけ、バイト」
午後はビッシリ勉強にあてようと思っていたけれど……やってみようかな、《頑張らない事を頑張る》。