第76章 清新
……そもそもこんな風になるなんて、自分の限界が分かっていない証拠だ。
「そ、そうだね……ちょっと私、間違えてる、かも。もっと頑張らないと……」
でも、どうすればいいのか。
何を頑張ればいいの?
「みわさんには、頑張らない事を頑張る習慣が必要ですね」
「?」
頑張らない事を頑張る?
どういう意味……?
「お休みの日は、何をしてるんですか?」
「えっと……家事と、勉強かな」
お洗濯して、隅々までお掃除をして、食材を下ごしらえして冷凍しておいて、合間の時間は勉強にあててる。
「それ以外の時間は?」
「……それ以外? って? トイレ入ったり、お風呂入ったり……?」
「……」
「……」
「みわさん、質問を変えましょう」
「は、はい」
黒子くん、まるで先生みたいだ。
学者帽が似合いそう、なんて思っている事が知られたら、怒られちゃうかな。
黒子くんは……心底困った顔をしてる。
「みわさんは、何をしている時が、一番癒されますか?」
「癒される……」
癒される?
癒される……?
癒される……癒される……
ぽわんと頭に浮かんだのは、涼太の笑顔。
あの大きな手に触れられた時。
……でも、多分こういう事じゃないよね。
本を読むのは好きだけど、癒されるか……
「うーん……よく、分からないかも」
「ちょっと、黄瀬君に相談してみてはいかがですか? 息抜きに関しては、ボクより彼の方が上手ですから」
再び出てきたその名前に、怯む。
「う……ん」
「黄瀬君に会えない理由があるんですか?」
会えない理由がある訳じゃない……。
いっつも、私自身の問題だから。
「ち、違うの……大会で忙しい時なのに、迂闊に涼太に会ったりしたら、きっと甘えちゃう。困らせちゃう」
「いいじゃないですか? 黄瀬君も嬉しいと思いますよ。貴女に甘えられたら、可愛すぎて朝まで離さないと思いますけどね」
「……っ!?」
なんか、黒子くんの様子がおかしい。
観客席から見た涼太もそうだったけど……幼さが抜けたというか、男らしくなったというか……。
私の記憶の中にある彼らとはあまりに雰囲気が違って。