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【黒バス:R18】解れゆくこころ

第76章 清新


駅の入り口には自動販売機が設置されていて、その明かりに吸い寄せられた虫の羽音が聞こえる。
ジジジと、焦る気持ちを煽るように。

「ロッカールーム……は、関係者以外立ち入り禁止でしたね。でも、会おうと思えばいくらでも会えるんじゃないですか?」

う、図星。

「あ……の、私、ちょっと次の約束があったから、すぐに会場を出なきゃならなくて」

真っ直ぐ見つめてくるその瞳から、つい目を逸らしてしまう。
後ろめたい時に、この視線はちょっと辛い。

「そうだったんですか。じゃあ、こんな風に倒れてしまって、お待たせしてしまっているかもしれませんね。ボク待ってますので、お約束のお相手に連絡するなら、どうぞ」

す、と一歩下がる黒子くん。
勿論、約束なんてない。
予定すらなかったんだから。

どうしよう、あきに連絡するフリをする?
でも……

オロオロと戸惑っていると、強い瞳の力が、少し和らいだ。

「すみません。意地悪を言いましたね。
黄瀬君に会えなかった理由は、その顔にもあるんでしょうか?」

私の下手な嘘なんて、お見通しだったみたいだ。

「顔……?」

もう、あの時の痣も傷あとも残ってない筈だけど……。

「酷い顔色ですよ。体調が悪そうだったので、黄瀬君に気を遣わせたくないのかなと」

「あっ、うん……それもあるんだけど、ちょっと、うん……」

ちょっと……何だろう。
うまく言葉に出来ない。

頭の中の辞書を開いて、五十音順に辿っていくようにしても、最適な単語が出て来なくて。

「……今日はもう帰って、ゆっくり休んだ方が良さそうですね。今度、お茶でも飲みに行きませんか?」

「あっ、うん……」

「みわさんはいつなら空いてますか?」

鞄から、濃い青色の表紙の手帳を取り出す。
ビジネス手帳コーナーにあった手帳で、デザインは簡素だけど使いやすそうだったからこれにした。
母校を思い出すような色も気に入ってる。

「……みわさんらしい手帳ですね」

黒子くんはそう言って、彼も手帳を取り出した。
黒・白・赤のラインのチェック柄。
誠凛のユニフォームみたいだ。

「黒子くんも」

2人でくすくすと笑い、この先数日のスケジュールを開いて……予定に空きがない事を確認した。




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