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【黒バス:R18】解れゆくこころ

第76章 清新


ひとの声が遠くから聞こえる。
なんか、焦ってるような、そんな……声。

ふわふわ揺れている意識が戻ってきた。
目を開けると、目の前には人が……

「……え?」

どうして?
どうしてここに?

「こんばんは、みわさん」

そう、夜半の湖面に現れる靄のような、早朝の霧のような、そんな儚げな水色の髪……

「……黒子、くん?」

待って、今ここはどこだったっけ?
黒子、くんも、バスケの試合を観に?
ううん違う、ここは私の自宅の最寄り駅。
そうそう用事なんてあるような場所じゃないでしょう。

「偶然ですね、ボクの友達がこの近くに住んでいるんです。ちょっと物を借りに来ていました」

お友達……が……

「ホームに向かおうとして、前から見覚えのある女性が……と思ったらみわさんで。
声を掛けようと思ったら突然倒れたので、驚きました」

ぼんやりとしている意識が少し鮮明になった。
そうだ、私、ふらっとしてしまって……

「そっ、そうだったんだ、ごめんなさい! 迷惑かけて……!」

慌てて起き上がり、辺りを見渡す。
小綺麗な室内の中に、ガラス戸があって、外を人が行き交っている。

見覚えのある風景。
つまりここは……

「ここ……駅長室?」

「はい。少し休ませて貰った方がいいかなと。送りますよ、みわさん」

黒子くんに誘導され、駅員さんにお礼を言い外へ出ると、肌を叩く風が冷たくなっていた。

日中の気温に合わせた服装では、少し肌寒いほどだ。

「わ……寒いね」

「黄瀬君に会いに行っていたんですか?」

「えっ」

その名前に、一瞬思考回路が停止する。

「倒れた時に、これを大事そうに抱えていたので」

彼が微笑みながら差し出してくれたのは、帰り道に購入した大会のパンフレット。
端が少し折れてしまっている。

「あ……ありがとう。会いに行った、っていうか、試合観に行ってたの」

「……折角観に行ったのに、会わなかったんですか?」

黒子くんは、そのビー玉のような透き通った目を丸くした。



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