第76章 清新
関東大学バスケットボール選手権大会。
関東インカレと呼ばれるそれは、1都6県から100以上の大学が出場し、関東ナンバー1の座を争うトーナメント大会。
4月下旬から、関東内にある各会場で試合が行われて、後半戦の5月からの試合は、都内にある、ここ……国立の体育館で行われる。
本当は、全試合観に行きたかったけど……どうしても都合がつかなくて。
この数日間の観戦で、じっくりと……
そこまで考えていると、アップをするためにコートに入って来た選手が目に入ってきた。
笠松先輩だ。
ということは、涼太の大学。
どくん、心臓が跳ねる。
観客席からは笠松先輩に向けた応援が飛ぶ。
若い子だけではない。
大人の男性や女性も、「笠松ー! 期待してるぞー!」なんて、声を掛けたりしている。
高校の大きな大会でもこういう野次はよく飛んでいたけれど、また違った雰囲気だ。
笠松先輩に続いて、ぞろぞろと出て来るメンバーの中に……いた。
きらり輝く黄の髪に、目を引く長身。
鍛えられた体躯に乗る頭は、彼より小柄な選手のそれよりもひと回り小さい。
この距離でも分かる精悍な顔つきは、少し幼さを残した高校生のものとは全く異なっていた。
久しぶりに見れたその姿に感激している暇もなく……体育館が、揺れた。
割れんばかりの歓声。
老若男女の声が入り混じり、もはや何と言っているかの判別はつかない。
辛うじて聞こえるのは「黄瀬」の2文字。
全部、涼太に向けた声だ。
涼太は観客席に向けて笑顔で手を振る。
ニコニコと爽やかな笑顔に、女性の悲鳴が響き渡る。
思わず、顔を伏せた。
頬を、温かいものが濡らしている。
……会いたかった。
毎日、朝と夜にメッセージのやり取りはしていて、電話も数日に1度はする。
でも、会えなかった。
手を繋ぎたい、キスをしたい、そう思っても叶うことはなかった。
その内、歓声がおさまるのと同時に、聞こえてきたのはカップルの声。
「隣の女の子、凄いファンなんだね、泣いてる」
「イケメンすぎんだろ、黄瀬涼太」
「あたしも超好きだもん、カッコ良すぎ!」
「コラ、お前には俺がいるだろーが」
「イケメンは別腹なんですー! いいなあ、あんな彼氏がいたら。羨ましすぎ!」
楽しそうなその声が、心底羨ましかった。