第76章 清新
涼太との電話から、数日、また数日と過ぎていくうちに、気付けばカレンダーをめくるタイミングになっていた。
5月だ。
春の匂いが薄れ、強くなっていく陽射しからは次の季節の気配を感じる。
過ぎてみれば、あっという間。
でも、振り返ってみれば、毎日が充実していて。
全くの新しい環境というのが、恐らく良かったのだろう……そう思っていたのだけれど。
日々の流れに慣れて、種類の違う疲れが溜まってくると、また……あの日の夢を見るようになった。
入学したての頃は精神的にも肉体的にも疲れきっていたから睡眠にはさほど苦労していなかったのに、ここに来てまた睡眠障害を再発させてしまったのだ。
悪夢を見て飛び起き、トイレで嘔吐する。
そうするとすぐに寝付く事が出来なくなり、時折襲い来るフラッシュバックに怯えながら、部屋の隅で膝を抱えて、震えながら朝を待った。
カウンセリングにも、定期的に通っている。
時折開催される性犯罪被害者のセミナーなどにも、積極的に参加をするようにしている……のだけれど、身体はなかなか言うことを聞いてくれなくて。
焦れば焦るほど、眠ることが出来なくなっていった。
「……ごちそう、さま」
「みわあんた、大丈夫? 全然食べてないじゃん」
あきが瑞々しいレタスをしゃくしゃくと咀嚼しながら、怪訝そうな目で私を見やる。
「ごめんね、平気。残った分は夜、食べるね」
キッチンからラップを持ってきて、お皿に被せると冷蔵庫へしまった。
「みわ、今日授業ないんでしょ? バイト休みにしたら?」
「ううん、明日は涼太の試合だからね、お休み貰ってるの。今日は頑張らなきゃ」
涼太には、試合を見に行くことは言ってない。
遠目で、観客席からでいいんだ、一目見ることが出来れば。
重い身体を引きずって、1日お仕事をした。
夜はまた……殆ど、眠れなかった。