第76章 清新
『みわこそ、なんか用があったんスか?』
「え……っ」
何か用事……ない。
おやすみなさいって、声が聞きたくて、それだけで……どうしよう。
迷惑だった、よね。
分かってた、分かってたけど。
喉が詰まったみたいに、声が出ない。
『特になし?』
「えっ、あっ、ごめんなさい、あの」
『じゃあ、オレ喋ってもいー?』
「……え?」
『ん? 用ないって事は、オレの声が聞きたくてかけてきてくれたんじゃないんスか?』
「う、あうあう」
そうなんだけど、確かにそうなんだけど、そうあっけらかんと明るく言われてしまうと、恥ずかしくて顔から火を噴きそう。
『オレもみわの声聞きたくてさ』
そう言いながら、まるで歌のように音を重ねていく様が耳に心地良くて。
涼太は、様々な事を話してくれた。
講義の雰囲気、バスケ部の普段の練習、ひとり暮らしでの家事、アパートの隣人、チームメイト……チームは人間関係が良く、うまくまとまっているみたい。
『笠松センパイがさ、よくウチに来るんスよね〜。最近は深夜までアレコレ喋ってたりするんスわ』
知っている名前に、ホッとする。
弾む声が、彼の新生活が充実している事を表してるから、私まで嬉しくなる。
更に涼太は、空き時間を見つけてモデルのバイトをまた再開したらしい。
とてもじゃないけど、往復4時間もの移動時間をかける余裕はなさそう。
……それは私も同じなわけで。
『みわは、どう?』
「うん、今は講義と、整骨院でのバイトだけだから。もう少し慣れてきたら、もっと楽になると思う」
『の割には、疲れた声っスね』
突然の指摘に、言葉を失う。
私……そんなくたびれた声で話していた?
感じ、悪かった?
「ごめんね、そんなつもりじゃなかったんだけど」
『頑張りすぎんのはみわの悪いクセ。栄養と休養とって、身体だけは壊さないようにして欲しいんスけど』
……心配そうな、声。
「うん、大丈夫だよ、ありがとう」
余計な心配をかけてはいけない。
私はまず、自分の管理を徹底しなきゃ。