第75章 ※章名については1627Pをご覧下さい
部屋はそれほど広くないけれど、大きなクロゼットが備え付けられていた。
みわの少ない衣類なんて、全部ハンガーに掛けてしまえるだろう。
みわは、段ボールから取り出したハンガーに、丁寧に衣服を掛けていく。
オレはその間に、他の段ボールを開ける。
靴も鞄も、使い古した物ばかりだ。
オレが買ってあげたのも、大事に使ってくれてるんだろう。
最後の1箱は、みわの私物だった。
ジロジロ見るのも悪いよな、と思いつつも、それほど量も多くないから、つい目に入ってしまう。
みわの部屋では見覚えのない大きめの薄い黄色のポーチが目に入った。
汚れひとつないそのポーチ、きっと大切にしているんだろう。
開けて見ちゃおうかな、そんなイタズラ心が顔を出したけど、やーめた。
「みわ、これ何が入ってんの?」
「どれ? ……あ、っ」
正直に質問したら、振り向いたみわが、赤面して固まった。
「見ていい?」
そんな反応をするなんて、気になる。
余計に、気になる。
「あ……う、ん、大丈夫、だけど……」
「んじゃ失礼」
チィとファスナーを開けると、中にはふわふわのタオルが入っている。
なんだろうと手に取ると、タオルの間に何か挟んである感触。緩衝材代わりに入れていたんだということに気付く。
なんだろ、傷ひとつ付けたくないような大切なもの?
ぱらり、タオルを開くと見覚えのあるアイテムがころころと出てきた。
香水に、ボールペンに、指輪に、南男猿。
その他の物も、全部よく知ってる……
……全部、オレがあげた物だ。
「これ……」
「や、やっぱり見ないで! だめ!」
「はは、もう見たって」
「だめ……! 見なかった事にして!」
ゆでダコみたいな顔をして必死に腕を伸ばしてくる。
ポーチをそっと箱に戻して、その腕を、捕まえた。