第75章 ※章名については1627Pをご覧下さい
新居には、8時半前には到着した。
外見は、スペインの某有名建築家の作品を彷彿とさせるような、曲線のバルコニーが特徴のマンション。
勿論契約してから足を踏み入れるのは初めてで、ドキドキしながらオートロックを開けた。
401のプレートがついた扉を開けると、嗅ぎ慣れない住宅の香りがする。
……ここが、私の家になるんだ。
なんだか、言いようのない違和感。
あきは、まだ引越しは先だと言ってた。
4月になる前には引越しするよ、くらいの気持ちだそうだ。
家電は明後日に届く予定だから、今日は片付けたらガス屋さんと水道局に連絡をしておいて、一旦おばあちゃんの家に帰る。
日用品の買い物は、明後日の積み下ろしが終わってからでいいよね。
結局、2、3往復しただけで、9時になる前には全て荷物を運び終えてしまった。
「涼太、あんた練習って何時からなの?」
「ん、13時。だから、11時前にはここ出ないと」
あと……2時間もないんだ……。
「あたし車で送ってあげるわよ。そしたら1時間は長くいられるでしょ」
お姉さんが、車のキーをくるくると回しながら、にっこり。
その姿が、まるで女優さんのようで素敵。
「いや、いいよ」
「あたしちょっと喉渇いたから、カフェにでも行ってくるわ。コーヒー飲みたくなっちゃった。12時前には迎えに来るから〜」
「……」
お姉さんを巻き込んじゃ悪いと思っての発言だったんだと思うけど……お姉さんも、涼太の事を考えてくれてる。
「んじゃ、また後でネ〜」
「……アリガト」
パタンとドアが閉まると、静寂が訪れた。
ふたりきりになったという事実が際立った気がして。
「……お姉さん、悪い事しちゃったね」
「ん……でも今日は、甘えさせて貰うっスわ。
みわ、どれ開ける?」
「あ、と、とりあえず全部フタ開けようかな」
片付けは1人でも出来るから、今はお喋りしたいな……と思ったけれど、うまく言う事が出来なくて。
とりあえず、衣類の箱を開けてクロゼットに収納し始めた。