第75章 ※章名については1627Pをご覧下さい
「りょ、涼太! お父さんがいらっしゃるなら、言ってよ〜……」
みわは、父親が去って行った後に、へなへなと座り込んでしまった。
「ゴメンゴメン。後で言おうかなって思ってたんスよ。ついでに下の姉ちゃんもいるんスわ」
「ええっ! お引越し屋さんに頼んだんじゃないの!?」
そう、今回の引越しは、父親と下の姉ちゃんの2人に協力して貰ってる。
そもそも言い出したのは下の姉ちゃんだった。海常から大学までは幸いにも距離が近いから、車で運んじゃえばいいんじゃないかと。
それほど大きくない家電と、多くない荷物。
引越し費用を浮かせる為だ。
そうと決まれば……と、持ち前のコミュニケーション能力を発揮して、軽トラックやらミニバンやらを借りてきてくれた。
姉ちゃんは既に家電を積み、出発を待っている。
全員で新居へ移動して、荷下ろしも全て終えてしまおうという計画だった。
なんだかんだ段ボールはかさばり、父親が運転する車にも乗らない荷物が出てきてしまいそうだったので、一度、新居で荷下ろし作業にしようかと思っていたところ……あんな事になったワケで。
後から来てくれたみわには、もうすぐ言うトコだった。
うん、キスが終わったら言うトコだった。
いや、アレは父親が悪いだろ。
頭の中でグタグダと言い訳する。
「みわ」
彼女の両わきを掴んで立ち上がらせると、ふらふらと足元がおぼつかない様子。
つい、いつもの癖で自分の胸に抱き込んだ。
「りょっ、涼太! 反省してない……っ!」
「あ、ゴメンゴメン、つい」
腕の中でバタバタともがくみわの髪をすんすんと嗅いでから、解放した。
「みわちゃんの引越しも手伝おうか!」
姉ちゃんが運転するミニバンに乗り込むなり、彼女はみわにそう言った。
「え……っ、いえ、大丈夫です! 距離、かなりあるので!」
「そうなの? どこだっけ、大学」
「えっと、西多摩のあたりなので……」
「それなら車だと1時間くらいで行けるから、いいじゃん」
遠慮するみわと姉ちゃんの応酬は、オレの新居に到着するまで続いた。