第75章 ※章名については1627Pをご覧下さい
貰ったボディソープを、忘れないように自分の荷物の横に置いて戻ってくると、涼太が私をじとりと睨んでいた。
……何か、怒らせるようなこと、しちゃった?
「……えっと、なにか、ある?」
「みわさあ」
「うん?」
「さっきから、オレを誘惑しないでくんないっスか」
……誘惑?
誰が? 誰を? 涼太を? え?
オレを誘惑、ってことは、私が……
「しっ、してないよ! なに、なんで?!」
どちらかというと、誘惑してくるのは涼太だもん!
いっつも、そうだもん!
「ほっぺた、リンゴみたいに真っ赤にしてさ」
ほら、涼太はいつも、気付けば私との距離を詰めて……
すり、と左頬を撫でるのは右手の人差し指。
少し屈んで向かってくる唇が、私の唇を塞いで。
……こころごと、奪っていく。
ふわり、涼太の匂いに包まれながら、ゆらゆらと波に乗っているかのように意識を委ねていると……
バタンと、扉が開いたような音。
「涼太、次はどれを積む……」
……っ、え?
部屋に入って来たのは、涼太の……お父さん。
え?
「なんだ、もう乗らないって言ってなかった?」
「積んでみたらまだあと1箱いけそうだったんだ。ハハ、お邪魔だったか」
「見りゃわかんだろ」
涼太は焦った様子もなく、すっと唇を離してお父さんとお話している。
……この間涼太のご実家で見た、2人のやり取り。
いや、違うの。
論点はそこじゃない。
ま、まって、待って。
み、み、み、見られた!!
彼氏のお父さんに、彼氏とのキスを見られました!!!
笠松先輩に続いて青峰さんにも見られて、私はどこまでいけばよいのでしょうか!?
「そう言えば父さんな、昔もこんな事があったんだよ。空港で整備士やってる同期がいてさ、ソイツが彼女をスタッフルームに連れてきて」
「聞いてねーし! ちょっと空気読めっての!」
「いや、その時のラブラブ具合が今のお前たちとよく似てるなと」
「マイペースかよ! 聞けよ!」
涼太がまさかのツッコミ役になるという、不思議なお父さん。
その後、変わらず2人は何か言い合ってたけど、私はぽかんと放心するしかなかった。