第75章 ※章名については1627Pをご覧下さい
──なんて言っていたのだけれど、結局引越しは涼太の方が早かった。
おばあちゃんが少し風邪気味だというので、私は引越しの日を延ばす事にしたんだ。
そして……今、私は海常男子寮に居る。
引越し作業の時には唯一女人禁制ではなくなるこの寮。
幾度と無く忍び込んだここに、許可を得て入るのは初めてだった。
「ありがとね、みわ」
涼太はそうお礼を言ってくれたのだけれど、彼の部屋は私に負けないくらい物が無くて、荷造りを手伝う必要が殆どない。
私が引き出しから物を出して、それを受け取った涼太がテキパキと荷造りを進める。
クロゼットのような押入れのような物入れスペースに置いてあるプラスチックケースの引き出しを開けると、涼太の私物ばかりだった。
……いや、ここは彼の部屋なんだから当たり前でしょう。
まるでファンのように、浮き足立ってしまっているのが分かる。
涼太の私生活に触れられるのが、嬉しくて。
落ち着いて、落ち着いて。
彼の荷物の中で一番多いのは、バスケ関連のグッズと、ファッションに関するものだった。
「はい、これ……DVD」
……もしかして……と思いながら、何気なくタイトルを見ると、全てバスケに関するものでホッとした。
「ん、サンキュ。エロいのなんか、ないっスよ?」
「そ、そそそそういうんじゃないもん!」
「はは、どもりすぎっしょ」
抗議するようにぺちぺちと涼太の手の甲を叩くけど、私の手なんかアッサリと捕まってしまいそうで、慌てて手を引いた。
「あっ、これ……香水?」
次は、深い海のような、青い液体の入ったボトル。
男性用香水だろうか。
「あー、最近使ってなかったっスわ。あったな、こんなん」
……涼太の匂いが、するのかな。
邪な気持ちを振り払って、更に棚の奥を探ると、異様に重たい紙袋がある。
「重……これは……ボディソープ?」
「撮影ん時にまとめて貰ったんスよね。みわ、使う?」
紙袋の中からボトルを2本、取り出してこちらに向けてくれる。
透明なターコイズのボトルに、ラベルには海のようなイラスト。
"オーシャンムスクの香り"と書いてある。
どんな香りだか想像出来ないけれど……
「欲しいな。涼太とお揃いの香り」