第21章 夏合宿 ー4日目ー
「オレの方がズルいって言ったでしょ……オレ、全部知っててあーゆー事したんスもん」
「……黄瀬くんは、どうして知ってたの……?」
「……いや、みわっちが倒れた日の朝、みわっちの様子見てなんかおかしいとは思ってたんスけど、夜オレのスマホに写真が送られてきて」
「え……」
「フリーメールアドレスからだったから差出人は分かんなかったっスけど、……キスしてる写真」
写真……見られてたなんて。
いきなりそんなものが送られてきたらどんな気持ちになるだろう。ゾッとする。
私なら、絶望してしまうかもしれない。
「それで……次の日は凄く怒ってたんだね……」
あの目を思い出すと、今でも寒気がする。
何者も触れられない空気感。
「そうっス。センパイだからってぜってー許さねーって、アタマきてて。
あの日は落ち着いていられなかったっスわ」
「……先輩に怒ってたってこと?」
「他に誰に怒るんスか?」
「いや、自分で言うのもアレだけど、浮気しやがってー、っていうのとか……」
黄瀬くんはキョトンとした表情でこちらを見た。
「いや、どう見ても無理矢理だし」
……私がさっきあの人に見せられた写真だと、正直、無理矢理かどうかなんて分からなかった。
見ようによっては、合意の上でしているようにも見える写真だったから。
向こうもそれを狙って撮ったんだと思う。
黄瀬くんがスマートフォンを取り出す。
「コレっスよね? あんま見たくねーけど」
画面に表示された写真は、確かに今日、先輩に見せられたのと同じものだ。
「なんでこれだけでわかるの……?」
「だって、みわっちキスしてる時こんな顔しねーし。まず目開いてるのがあり得ねーし」
「……えぇ?!」
「もっと、オレとする時は顔も舌も身体もどろっどろに蕩けて、もっともっとってしがみついて欲しがるじゃないスか……だからね、これが本当の『浮気現場』の写真なんて事、あり得ねーんスわ」
「まさか、そんな事で判断してたなんて……」
「"そんな事"はないんじゃないスか。
オレみわっちのあの顔見たくていつも弄ってんのに」
黄瀬くんが上目遣いでいたずらな顔をした。
「ちょ、っと待って」
これ以上恥ずかしい事を言われたら、顔から火が吹き出して倒れるかもしれない。