第21章 夏合宿 ー4日目ー
「みわっち、今日はもう部屋で休む?」
心配そうに黄瀬くんが言ってくれたけど、もうちゃんと話すって決めたから。
「……少しだけ、寄って……いって」
「……うん」
部屋に入った途端足に力が入らなくなって、その場に座り込んでしまう。
「みわっち?」
「あれ……なんで? 足が」
あの時は怒りと興奮で気付かなかっただけで、怖かったんだ。
今になって、身体が震えてきちゃった。
抵抗してもしても敵わない、男の人の腕力を改めて思い知った。
両手を、温かい手が包んでくれる。
「……落ち着くまで、握ってるっスよ」
黄瀬くんの体温と、いつもの優しい声だ。
涙が我慢出来ない。
「黄瀬くん……ごめんなさい……」
握ってくれている手にボタボタと涙が落ちてしまう。
顔が上げられない。
「わたっ……私、先輩に……むりやり……キスされて、ごめんなさい……嫌われたくなくて、言えなくて……隠してて……傷付けて」
「……うん」
「ごめんなさい、ちゃんと……逃げられなくて……他の人と……」
「……みわっち、オレはね、みわっちがオレに言ってくれないのが一番イヤだったんスよ」
「……え……」
「オレは、みわっちが好きで、他のヤツとキスなんかするわけないって、信じてるから。
それなのに、みわっちはオレの事全然信じてないんだって、それがイヤだった」
「し、信じてないわけじゃなくて……」
「でも、言ったら嫌われると思ったんスよね?」
「……」
返す言葉がない。
その通りだから。
人を信じることって、自分が強くなきゃ出来ないんだ。
私は色々な事に理由つけて、逃げて、自分に自信がないからって、甘えてた。
結果、大切な人を傷つけてしまったんだ。
「……信じられてなかったのは、私の弱さのせい。もし信じて、頼って、でもそれが相手に受け入れられなかった時に傷つきたくないからって、自分で自分を守ってた」
下を向き続けるのは卑怯だ。
泣きながらでもなんでもいい。
顔を上げて真っ直ぐ黄瀬くんを見るんだ。
「……みわっち……」
「ごめんなさい。キスされたのも、きっと隙があったんだと思う……」
「それは違うっスよ。なんでもかんでも自分を責めないで」
黄瀬くん……ごめんなさい。