第75章 ※章名については1627Pをご覧下さい
口数が、減ってきた。
ふたりとも、この貴重な時間を噛みしめるように、体育館の中をぐるぐると歩いて回ってる。
みわも、分かってる。
こうしていられるのももう、最後だって。
やりたい事をやりたいだけやれるっていうのは、もう終わりだ。
それがきっと、一歩オトナになるってこと。
もう、21時を過ぎてる。
お祖母さんに連絡も入れたし、体育館はコッソリ合鍵を借りてるから大丈夫だと思うけど、本当にもう……帰らなきゃ。
「みわ、そろそろ」
「涼太」
「うん?」
繋いでいる手をぎゅっと握って、みわは立ち止まった。
オレたちが今立っている所は、ちょうどコートのセンター……試合が始まり、終わる場所。
「涼太……今まで、ありがとう」
みわは、月の光を受けている時が一番キレイだと思う。
ぼんやりと光って、女神みたいだ。
「こちらこそ、っスよ。今日さ……お祖母さんも言ってたけど、みわ、メチャクチャカッコ良かった。誇らしかった」
立ち向かっていく姿があんなにも美しいというのを、彼女の背中から教わった。
みわは、いつもオレのおかげとばかり言うけど、きっとオレの方が貰っているものは多くて。
「みわから貰ったもの、今度はオレがお返ししていくからさ」
「ううん、私の方が……」
「いや、オレがさ」
そんな言い合いを暫くして、ふと目が合って、笑った。
「ハハ、キリないっスね」
「ふふ、そうだね」
繋いでいる手を握り直して、出口へ向かう。
もう、送ってってあげな
「……たく……ないな」
……え?
今、なんて?
「あ……なんでも、ないの。ごめんね」
「みわ」
「明日、朝から不動産屋さん巡りするんだよね、寝坊しちゃったら大変。帰ろう!」
するりと繋いでいた手を離して、みわは駆け出した。
「みわ、待って!」
慌てて追いかけて、その手を掴み直す。
離す気なんか、ない。
「ねえ、」
言いかけて、気が付いた。
みわが、泣いてる。
「りょうた……」
みわの気持ちが痛いほど伝わってきて、胸が、切り裂かれたみたいに痛い。
「涼太……離れたく……っ、ないよ……!」