第75章 ※章名については1627Pをご覧下さい
「似合うっスよ」
「ほんと? ほんと? おかしくない?」
鏡を見ながら顔を左右にひねって、何度も確認するのが堪らなく可愛い。
「可愛い。メチャクチャ、可愛い」
「……ほんと?」
恥ずかしそうにするその上目遣いは、ワザと? いや、みわは天然でこういう事するから、手に負えない。
「オレがウソつくわけないっしょ」
「えへへ、嬉しいな。ありがとう、涼太」
その素直な言葉と微笑みに、ほわほわと胸があったかくなる。
同時に、ジリジリと胸が焦げ付くような気持ち。
これは、焦り……?
ああ、こうして過ごす事が出来るのも、もう最後かもしれないからか。
仕方がない事だ。
お互い、新しい環境に身を置いて、さらに忙しくなる。
もう、夕飯時だ。
みわを送って行ってあげないと。
明日には、新居探しをしなきゃならないし、やらなきゃならない事も山ほどある。
でも……
「みわ、も少し……一緒にいよっか」
「……うん!」
みわは、大きな目を丸くすると、照れ臭そうにまた、ふにゃりと微笑んだ。
薄暗い体育館の中を、ふたりで歩く。
「あ、みわ、ここでも滑って躓いたっスよね?」
「……そうだっけ?」
みわはちょっとドンくさくて、よく体育館内で転びそうになっている。
そう、ここもその内の1箇所で……
「ほら、小堀センパイに助けてもらっ……」
そこまで言って、その後に起こった事を思い出した。
オレが、嫉妬してみわを校内で無理矢理抱いた。
流石に気まずくなってみわの方を見やると、彼女も、薄暗い中でも分かるくらいに頬を染めて俯いている。
「……ま、なんつーか、色々、あったっスね」
練習中はいつも、ここにボトルとタオルを置いておくんだよな。
アップはいつもここからスタートで。
カントクが来て集合するのはここで。
みわがミニゲームで審判をする時はここから始めて。
……校舎を回ってる時はそれほど思わなかったけど、体育館には数え切れないほどの想い出がある。
それを共有できたキセキに感謝して、繋いだ手に力を込めた。