第21章 夏合宿 ー4日目ー
小堀先輩が、いつもの優しい顔を歪めて問いかけた。
「……で、悪いんだけど俺たち状況を全く掴めてないんだけど、経緯を説明して貰える?」
「……えっと……私が先輩に告白されて……」
「……カンタンに言うと、さっきのアノヒトがソイツを利用して、オレに嫌がらせしようとしたみたいっス」
「おまえ、本当に簡単に済ませたな……」
森山先輩が呆れた声で言う。
「……スミマセン。またオレのせいっスね」
なんで黄瀬くんが謝るの。
「黄瀬くんのせいとかじゃないです! 皆の前を行く人は、妬み嫉みをどうしても抱かれやすいものですし……」
「黄瀬、おまえカッとなると暴走するし、神崎もキレたらだいぶ激しいし、とりあえず落ち着け」
「……神崎、怖かっただろ。
無理に連れて来ちゃったけど、部屋に戻るか?」
小堀先輩にそう言われて、一瞬呆気に取られてしまう。
「……え……あ、あの、なんか本当に頭に血が上っちゃって……怖いのはあんまり記憶になくて……売り言葉に買い言葉で、私があんな言い方をしたので、先輩も逆上してしまったんだと思います。反省、しています」
あんなに頭にきたのは初めてかもしれない。
怒りで我を見失うなんて……
「そうか。今回はアイツが卑怯な手を使おうとしたのが100%悪いけど、今後は諍いになった時に怒りを煽らないようにな」
「はい……」
「やっぱり、オレがいるからこんな事ばっかり起こるんスかね」
黄瀬くんが俯いて拳を握っている。
「何言ってんだ。うちの部員、何人いると思ってんだ。部員同士のトラブルなんて、それこそ日常茶飯事だよ」
森山先輩は、いつも通り優しく微笑んでいた。
「でも……」
「だから部員同士で助け合うのが必要なんだって。おまえら2人とも自分で抱え込むタイプだからさ」
……ぐうの音も出ません。
森山先輩が立ち上がって黄瀬くんの肩を叩いた。
「……ま、気にしたって仕方ない事もあるって。
内容は俺たちから笠松に伝えておくから、今日はもう戻れ。まだ合宿はあと1日あるんだからな。ちゃんと集中しろよ」
「バスケは集中して……やってるっスよ……」
「分かってるよ」
「……中村センパイも、スミマセンでした」
「いや俺は正直、ついてきただけだから」
小堀先輩、森山先輩、中村先輩は、先に部屋へ戻っていった。