第75章 ※章名については1627Pをご覧下さい
「っと……こんなんしてたら、目的が変わるっスね」
触れるだけのキスはすぐに離れ、涼太は消毒液のボトルを手に取った。
気が付けば、ウェットティッシュまで用意してある。
涼太はウェットティッシュで手を拭ってから、消毒液を私の耳朶に塗布した。
ひやり、冷たい液体の感触の後にスーッと抜ける清涼感。
なんか……ドキドキ、してきた。
「保冷剤とかでガンガン冷やして、耳の感覚無くす方法もあるんスけど」
「……ん、なんかに書いてあったの、見た」
勿論ここにそんな物はない。
以前、病院でピアスホールを開けた事があるらしいあきは、"保冷剤? ひと昔前ならやったかもしんないけど、あたしの行った病院ではやらなかったよ。開ける場所をボールペンで書いて、バチンバチンって"と言ってた。
……ついでに、どの位痛かったかと聞いたら、"大丈夫、あんたの初体験を考えたら、蚊に刺されたみたいなもんよ"と笑われてしまった。
「痛いっスよ、開けるの。いいの?」
「うん」
痛い、よね。
大丈夫、蚊だって。
蚊。
蚊。
「それに、音が」
「りょ、りょうた!」
「うん?」
「ちょ、もっ、大丈夫だからっ、なんか色々聞いてると、逆にドキドキしちゃって……もうバチンと思いっきりいっちゃって!!」
心臓の音が、スピーカーに乗って拡散されているんじゃないかと思う位、大きく聞こえる。
涼太はくすくすと笑った後に、真剣な表情になった。
「みわ、怖いなら無理しなくても」
「怖くない……涼太、お願い」
涼太に嫌な役割を任せている自覚はある。
でも、涼太にやって欲しい。
「開ける場所はオレが決めていいの?」
「……お願いします」
どくん、どくん、どくん。
カチャ、と小さな音を立てて、ピアッサーが私の耳に当てられる。
「いくよ、みわ」
「……ん」
涼太の顔が間近にあって、目のやり場に困ってしまう。
無意識に首を動かしてしまいそうになって、慌てて目を瞑った。
僅かの逡巡ののちに、息をのむ気配。
バチンという大きな音が、私の鼓膜を揺らした。