第75章 ※章名については1627Pをご覧下さい
「はぁ……終わっちゃった、ね」
「……そっスね」
楽しい時間はあっという間。
あれから、皆の目元からの降水量は増えていく一方で、最後の最後まで泣きながら、笑いながら、皆で過ごした。
楽しかった宴はおしまい。
今は、誰もいなくなった体育館に、涼太とふたり、佇んでいる。
照明は、私たちが立っている一部分を除いて消灯してしまったため、薄暗い。
その代わりに、皆の汗と涙、バッシュの跡が刻まれた床を、ひっそりと現れたお月様が照らしてくれている。
皆がいる時はあんなに狭く感じた体育館の中は、今はとっても広く感じて。
まだ少し残っている熱気に包まれているような気がして、目を閉じて深呼吸をした。
これからは、ふたりの約束の時間。
「みわ、……ホントにやっていいんスね?」
「うん、お願い」
すこし躊躇いがちだった涼太は、ハァと息を吐いて、その場に座る。
そのままカバンを探り、ビニール袋を取り出すと、彼のコートをおもむろに床に広げた。
「涼太……?」
「冷えちゃうから。ここ、座って」
「えっ……大丈夫だよ、コート汚れちゃうよ」
中からピアッサーと消毒液のボトルを取り出すと、一旦床にそれを置いて、手のひらをこちらに大きく差し出した。
「おいで、みわ」
はちみつのような甘くとろける声で呼ばれ、なす術なくその腕の中へと吸い寄せられる。
抱きしめられ誘導されるまま、涼太のコートの上に座った。
ちゅ、と額に触れた唇は、少し冷たい。
唇とは対照的な温かい指先が、右耳の耳朶に触れる。
「……右で、いっスか」
「あ……左右どっちにするかは考えてなかったんだけど……」
お揃い、というくらいで具体的には考えてなかった。
「左耳のピアスは守るヒト、右耳のピアスは守られるヒトって意味があるんだって。
ごめんオレ、今まで全然みわの事、守れてないけど……これから先は、守らせて」
小さく頷くと、彼の冷たい唇が、私のそれと重なった。
温度と湿度を上げていく唇。
涼太の左耳のピアスが、月の光を受けて煌めいた。