第75章 ※章名については1627Pをご覧下さい
「……ううん、私がやったのは、そんな風に言って貰えるようなものじゃないよ」
1年生の時のウィンターカップ……涼太がオーバーワークで故障したのは、私の責任だ。
それを償った気になりたくて、同じ目に遭う仲間を見たくなくて、それで無意識のうちに笠松くんを使っただけなんだ、きっと。
「先輩はいつも、大した事してないってそう言いますけど、先輩の言葉には、いつも……愛、が、こもってて」
笠松ー、愛の告白かー!?
黄瀬先輩に殺されるぞー!
と、野次が飛ぶ。
笠松くんも、恥ずかしそうに頬を染めて。
「そんなんじゃねーってば! とにかく、あの、いつも練習中も、試合中も、先輩の言葉に……先輩の存在に、助けられました」
私の、存在に?
「先輩。先輩の価値が分かってないのは、先輩だけですよ。先輩がやってくれた事は、誰にでも出来るような事じゃないです」
私の、価値?
「先輩は、誰よりも真面目で、強くて、優しくて。自分に厳しくて、人には優しすぎるところとか、すげえなっていつも思ってて」
え、なに、なに?
「先輩が教えてくれた"得意冷然、失意泰然"
……うまくいっても浮かれるな、失敗してもクヨクヨするなって言葉、いつもこころの中で唱えて、試合に挑むんです」
笠松くんの後ろで、皆がウンウンと頷いている。
「もう走れないって思っても、あれだけやったんだから大丈夫っていう、神崎先輩の言葉で、走れるんです」
何が起きてるのか、処理が追いつかない。
「神崎先輩を、勝たせてあげたいって思うと、力が湧いて来たんです!」
これは……現実?
「俺たちからのお願いです。黄瀬先輩と、ずっと一緒に居て下さい。黄瀬先輩の隣には、神崎先輩が居なくちゃ、ダメなんです」
目の前が、滲んでよく見えない。
「神崎先輩! 俺たちの希望になって下さって、本当にありがとうございました!!」
頬を温かいものが滑り落ちると、皆の顔が、よく見えた。