第21章 夏合宿 ー4日目ー
「……この野郎……」
凄い力で髪を引っ張られる。
痛い。頭皮ごと剥がれてしまいそうだ。
「痛……っ、コソコソと裏でしか動けない臆病者! 黄瀬くんの努力も知らない癖に!」
なんて自分勝手な理由だ。
許せない。
「黙れ!」
「ぐっ……!」
顔を、洋式の便座のフタに押し付けられた。
悪臭が鼻をつく。
後ろ向きにさせられているから、相手の顔は見えない。
「黄瀬くんは確かに才能ある人だけど……才能があるだけじゃ、あんな風にはなれない……貴方の発言は、黄瀬くんに失礼だわ! 撤回して!」
「その減らず口、きけなくしてやるよ!」
先輩はハーフパンツに手をかけてきた。
強引に下ろすつもりだ。
「やッ……やめて!」
「うるっせー!」
無我夢中で身体を捩って逃げてもすぐに、凄い力で押さえつけられる。
嫌だ。嫌だ。なんでこんなに力の差があるの……!
「は、離してっ!」
「みわっち!」
……
声がした。今、確かに黄瀬くんの声が。
「なッ、黄瀬、お前なんでこの階に……」
驚いた隙に、手が緩んだ。
すかさず振りほどいて、全力で突き飛ばす。
不意を突かれた身体は、反対側の壁まで吹き飛んだ。
「ってぇ……神崎テメー……」
「……ナメてんじゃないわよ……! 黄瀬くんにイチャモンつけようなんて、100年早いわよ! 貴方、エースのプレッシャーが
どんなものか、分かっているの!? 苦しみも分からないのに…何も知らないのに勝手な事ばかり言わないで!」
「……ストップ」
……え……今の声……
頭に血が上って、黄瀬くんの声がした方を全く確認していなかった。
見ると、笠松先輩を含めたレギュラー陣が。
小堀先輩は、黄瀬くんを押さえつけている。
「センパイ! 離して下さいっス!」
「オマエ、何するか分かんないからちょっと待てって……」
「せ、先輩方……」
「笠松、なんでお前らまでここに……」
「2年のヤツが、オマエが神崎をトイレに無理矢理連れ込んだって、俺たちに報告してきたんだよ。ちょっと別室で話そうか」
先輩は、笠松先輩と共に、出て行ってしまった。
「神崎、大丈夫? 歩ける?」
「だ、大丈夫です……ちょっと、頭に血が上っちゃって……」
私たち5人は、笠松先輩達とは別の会議室に入って話をすることになった。