第75章 ※章名については1627Pをご覧下さい
「しばらくはみわちゃんも涼太も落ち着かないと思うけれど、新しい生活に慣れたら、また遊びに来てね。皆、待ってるから」
「はい、……ありがとう、ございます」
ほろ、ほろ。
あれ、なんでだろう。
なんで、こんなに胸があったかくなるんだろう。
左手が、痛い。
「みわちゃん?」
「あの、私……すみません、なんか……っ卒業、だからかな」
抑えようとすればするほど目から涙が溢れてしまいそうで…
「みわ?」
背中から聞こえるのは、涼太の声。
おばあちゃんも、不思議そうな顔だ。
当たり前だよね、なんで突然。
ああ、皆を心配させちゃうよ。
早く、いつも通りに戻らなきゃ。
とにかく涙が出ないように乱暴に顔を両手で擦っていると、優しい花のような香りに包まれた。
……涼太の、お母さん。
ヒールを履いているから、私よりも身長が高い。
抱きしめてくれたその身体は柔らかくて、あったかくて、優しくて……。
本当のお母さんみたいだ。
「……みわちゃん、よく……頑張ったね。辛いこと、いっぱいあったでしょう。お疲れさま」
左手が、じんじんと痛い。
涼太のお母さんは、事情を知らない。
なのにこんなに優しくしてくれるのは、なんで……?
分からなくて、どうする事も出来なくて、暫くその胸をお借りしてしまった。
ありがとうございます、小さく小さく出たその呟きは、届いたかな。
ううん、届いてなくても、きっと伝わってる。
ありがとう、ございます。
フッと、電気が消えた。
ざわついたのも束の間、会場の端に設置されているステージに、スポットライトが当たる。
「ご卒業おめでとうございます!!」
毎年恒例、在校生の催し物。
いつも、レベルの高い仮装や女装で歌い踊る姿が保護者にも人気で。
今年は、何を見せてくれるのかな?
以前、あきがCDを貸してくれたイケメンダンスグループのヒット曲のイントロが会場に流れ出した。