第75章 ※章名については1627Pをご覧下さい
「行ってくるね」
ピリリ。
まるで静電気が発生したかのような感覚。
みわの周りの空気が、変わった。
……オレの好きな顔だ。
集中して、まっすぐ前を向いて。
「ん、行ってらっしゃい。応援してるっスよ」
ちらり、振り向きざまに見せてくれた笑顔。
朝から震えていた彼女を見て心配していたけれど、大丈夫。
みわは、大丈夫だ。
繋いでいた手を離し、オレも体育館へと移動する。
この廊下も、トイレも、全部お別れか。
不思議なカンジ。
でも正直、オレはあんまり感傷に浸るタイプじゃない。
というか、執着心がない。
ヒトにも、モノにも。
みわが初めてなんだ、マジで。
時間があったから、笠松センパイとの連携について思いを巡らせていたら、卒業式はいつの間にか始まっていた。
マイクで、次々と呼ばれる卒業生の名前。
もう、早くもうちのクラスまで来ている。
「黄瀬涼太」
「ハイ!」
わずかにどよめく保護者席や在校生席。
黄色い声も聞こえてくるけど、さすがに卒業式の最中に手を振るわけにもいかず、スルーを決め込む。
オレたちは、呼ばれたらその場で返事をし、起立して待つ。
卒業証書はみわが代表して取りに行くんだ。
「卒業生 総代 神崎みわ」
「はい」
低めの、よく響く声。
出逢った当初は、もっと口の中に篭ったような喋り方だった。
彼女なりに、自信をつけてきたんだろう。
決してギャアギャアと表立って喚くタイプじゃないけれど、強い意志はきちんと宿っている。
カタリとも音を立てずに立ち上がったみわは、オレの横を通ってゆったりとした足取りで壇上へ。
リハーサルではガクガクと震えていた足も、その心配はないようだった。
なんて、キレイなんだろう。
あの時もそうだ。
その凛とした姿に、目を奪われて……
気付けば、こころまで奪われていた。