第75章 ※章名については1627Pをご覧下さい
「キレイに塗れたんスね」
大きな手が触れたのは、私の頬。
ファンデーションの事を言っているんだろう。
「うん、おかげさまで」
一昨日、病室から練習に行った涼太が、連れ帰って来てくれたのは……モデルの仕事をしている中で知り合い、気が合ったというメイクさんだった。
彼女は、理由も聞かず、傷あとが隠れるような専用のファンデーションを塗ってくれ、不自然さが隠れるように仕上げてくれた。
本当は、アザや傷あとを隠すつもりはなかったけれど……卒業式は私だけのものじゃない。
だから、なんとか見えなくする方法はないかと、涼太に相談していた。
皆が晴れ晴れと卒業出来るように、壇上へ上がる私は、いつも通りでいなくっちゃ。
「行こっか」
「うん」
大きな手が、私の手を包む。
長い指が、手の甲をするりと一回り撫でてから、私の指に絡まった。
……一昨日、もうひとつの出会いがあった。
病室にやって来たのは、スズさんと、質の良さそうなジャケット姿の男性……スズさんの、お父さん。
彼は、病室に入るなり、深々と頭を下げた。
スズさんが、お父さんに……話したんだそうだ。
私は突然の展開にあまりマトモな受け答えが出来なかったんだけれど、一緒に居た涼太が間に入ってくれて。
学校を辞めさせるつもりだと、言っていた。
転校なのかどうかは分からないけれど……。
でも、私はその意見にハイ賛成ですとは言えなくて。
だって、今スズさんがいなくなったら、海常バスケ部はどうなるの?
彼女と共に歩んで来たチームメイト達のショックは計り知れない。
大切な、仲間なんだ。
あんな事があったけれど、それは変わらない。
だから、私はその気持ちを素直に伝えた。
スズさんは泣いていて、スズさんのお父さんは、少し検討させて欲しいと言って、去っていった。
きっと私には分からない、大きなおうちのしがらみとか、そういうものがあるんだろう。
スズさんのお父さんは、帰る前におばあちゃんに何やらお金の話をしていったみたい。
私は、お金が欲しいわけじゃないし、もし受け取るとしてもおばあちゃんに全て渡そうと思っているから、口出しはしなかった。
海常バスケ部はどうなるのか、スズさんの将来はどうなるのか。
こんな事を心配していたら、涼太にまた、甘いって怒られてしまうかな。