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【黒バス:R18】解れゆくこころ

第75章 ※章名については1627Pをご覧下さい




ひらひら、ひら。

目の前を、優しい薄ピンクの欠片が右、左。

思わず開いた窓から、ひとひら舞い込んで、手のひらにふわり、乗った。

「……お祝い、してくれてるの?」

ありがとう、微笑みをお返ししてから、その花びらをつまんで、手帳に挟んだ。

グレーのブレザーのボタンを閉めて、エンジ色のネクタイを締める。
いつもの行動。

でもこれも、今日まで。
今日は、海常高校の卒業式。

コートを手に取って、ギシリと軋む階段を下りていく。
おばあちゃんが、台所から顔を出した。

「みわ、準備は出来た?」

「うん、今行くよ」

鞄とコートを玄関に置いて、居間へ向かう。
ひんやりと冷えた廊下の温度が、靴下越しでも分かる。
まだまだ寒い……けれど……春、だ。

別れの春。
出会いの春。


「いただきます」

おばあちゃんとの朝ごはん。
これとも、暫くお別れ。

「……美味しい、な」

大好きなだし巻き卵にかぼちゃの煮付け。
朝はやっぱり焼いた鮭に納豆に海苔。
お味噌汁の優しい味も、いつもの。

「おばあちゃん、ありがとう」

「ふふ、まだ泣くのは早いでしょ」

そう返したおばあちゃんの目も、潤んでいた。
だって、3年間……色々な事がありすぎて。


「帰って来たらまたゆっくりお話しましょう。ばあちゃんも卒業式、見に行くから」

「うん、頑張ってくるね。行ってきます」

「行ってらっしゃい」

履き慣れたローファーの感覚。
玄関を開けると、強い風のいたずらで、目の前が桜の嵐だった。

「わ、綺麗!」

……舞い踊る桜の花びらの中、浮かび上がった黄色は、いつもの輝き。

「オハヨ、みわ」

長身を包むグレーは、私のものと同じはずなのに、ずっと優しく見える。

清爽で、寛雅。
それなのにどこか妖艶で。

「……綺麗」


──綺麗な、ひと。



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