第74章 惑乱
みわは、いつからこんなに自信が無くなったんだろう。
少なくともオレがSariにヤられた時には、もう少しオレの事……自分の男だって、独占したいって、そう思う気持ちがあったはず。
……みわの過去を、思い出すたびに。
……オレの未来が、見えてくるたびに。
自分の欲望よりも、オレを優先するようになった。
それが嬉しくて、でも寂しくて。
みわの愛は、いっぱい感じてる。
でも、もっともっと独占して欲しい。
距離なんかに、負けないように。
また少し、水でも飲んだ方がいい。
そう思って、ベッドから下りて再びベッドの正面……壁際に置いてあるイスに座った。
オレが冷蔵庫を開けようとしていると……みわは突然、入院着のボタンに手をかけた。
「みわ?」
ひとつ、ふたつとボタンが外されていき、隙間から胸の谷間が現れ始める。
「みわ、どしたの」
オレが呼びかけても止まることはなく、みわは上着を脱いだ。
日焼けとは無縁の白い裸体には、青アザが無数に刻まれていた。
腕には、擦り傷のあと。痛々しいかさぶたになっている。
そして、頬の大部分を隠しているガーゼを取り去ると、黒々としたアザが姿を現した。
無残な姿に、一瞬言葉を失う。
どくどくと脈打つ心臓の裏からふつふつと湧いてくるのは、怒りか。
「涼太……これ、これが、今の……私。
こんな、こんなになっちゃったのに、それでもまだ……受け入れて、くれるの?」
そう言いながら、今度は入院着のズボンにも手をかけ始める。
「まだ、まだ下にも、あるの。足にも、お尻にも」
「みわ」
「これだけじゃないの。もっとされたの、もっと」
「みわ」
その手を押し留めて、冷えた身体を抱きしめた。
こんなアザ、触れるだけでかなりの痛みのはず。
でも、今のオレにはこれしか出来ない。
「みわ、キレイ。言っただろ、何にも変わってないってさ」
「そ、んなの……」
「みわは、オレの事が嫌いになった?」
「な、らない……なるわけない。すき……だいすき、だいすき、涼太」
「その言葉、まんまお返しするっスよ」
その唇は、オレの熱を再び受け入れてくれた。