第74章 惑乱
「涼太は……どうして、そんなに優しいの?」
ぽろぽろ、小さい飴玉みたいな水の玉が、大きな瞳から零れ落ちる。
「オレは、優しくなんかないって」
こんな風に思うのは、みわにだけだ。
今までずっと、オンナなんか面倒で、遊びたい時にテキトーに遊べる存在で。
オレの顔しか見てないオンナたちは、甘い物に群がるアリのようなバカ女だと思っていた人間だ。
自分で言うのもなんだけど、認めてる人間以外には、かなり冷淡だと思う。
でもいい。
別に、皆に好かれる必要なんてないから。
「優しい……よ」
「もしそう感じてくれてるなら、それはみわだから。みわだけ」
みるみるうちにみわの頬が赤くなっていく。
まるでチークをしてるみたいに、ほんのりと優しく色付いて。
「みわさ、午後の警察との話、無理しないでね」
事務的に……とはいえ、被害状況を1から10まで確認する作業。
以前は女性の警察官が来ていたが、こころをすり減らす行為だ。
その時もみわは、震える手を握り締めながら、息を乱しながら、声を絞り出していた。
それなのに、残されていた映像の確認まで必要とか言われて。
そんな事まで確認しなきゃなんねぇの?
画像見りゃ、みわだって一目瞭然だろ?
そうは思ったけど、そんなの聞き入れられる訳もなく。
……でも、気になっていた事……みわが犯されている時の動画は、まだ編集の段階だった為、ネットにアップされずに済んでいた。
でもそれもあとわずかの時間だった。
あれがもしネットに流出していたら、もう止める事は出来なかった。
事態はさらに悪い方向に行っていただろう。
更に、みわは尿検査をした。
……あの事務所の、みわが保護された時に居た部屋には、麻薬の類が山ほど置いてあったんだそうだ。
結果は、陰性。
本当に良かった。
どれも、警察では間に合わなかった。
赤司っちが素早く助けに行ってくれた事……感謝してもしきれない。