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【黒バス:R18】解れゆくこころ

第74章 惑乱



今日の午後は……警察の人間が病室に来る予定だ。

みわはそこでキチンと話すと決めていたから、その前にオレに聞いて欲しかったのかもしれない。

「みわ、無理は……」

しないで、そう言おうとしたのに、いつの間にか言葉は出なかった。

「涼太……聞きたくないなら、言って」

みわの、真剣な表情に圧されて。
彼女の、覚悟が見えたから。

「ンなわけないっしょ、聞くっスよ」

オレだって、受け止める覚悟はとっくに出来てる。

彼女の太ももの上に作られた拳を包むように握ると、みわの肩に入っていた力が、ストンと抜けた。

「私も、記憶が曖昧な部分があったりするんだけど……」

彼女は、俯きながら話し始めた。
あの日のことを。




とにかく、スズサンだけでも逃がさないと、そう思って、みわは彼女を美容院の階へ誘導した。

でも、すぐに見つかってしまうだろう。
見つかったら、おしまいだ。

一刻も早く、助けを呼ばないと。
でも、110番通報して、どこまで正確に状況を伝えられるのか。
この雑居ビルの住所だって分からない。
イタズラと思われて終わりだろうか。
そんな不安を抱きながらも、他の方法が思いつくほどの余裕はなかった。

後はスズサンに任せるしかないと彼女を信頼し、みわはひとり、事務所まで引きずられて行った。

「私……なんにも、出来なかったの。ナイフで脅されたら、怖くなってしまって……」

ぽつり。
悔しそうに、悲しそうに溢した言葉。

当たり前だって。
大の男に囲まれた女の子が、抵抗なんか出来るもんか。

そこにある絶対的な暴力に屈しなければならない恐怖と屈辱は、みわが今まで味わってきたものと同じだ。

ようやくあの地獄から解放されたと思ったのに。

……みわは、温度のない固い声で、ゆっくりと話し始める。

指先が冷えていくスピードが少しでも緩むように、オレはずっと手を重ねていた。



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