第74章 惑乱
あの事件があって……赤司さんに助けて貰ってから、数日間の記憶があやふやだ。
でも、看護師さんから、アフターピル……緊急避妊薬を服用したこと、その数日後に消退出血と見られるものがあったと、聞いた。
大丈夫、避妊は成功した。
もう、安心。
……それなのに、その後に来るはずの生理が、来ない。
個人差があるものだから、心配はないと思うけど、あと数日来なかったら念の為に医師に診て貰った方が良いと言われ……今に至る。
涼太と楽しく合宿の話をしている間は、考えなくて済んだ。
でも、彼の熱いキスを受け入れて……愛を受け取って、みわは何にも変わってないと言ってもらって、怖くなった。
妊娠していたら、どうしよう。
どうしよう。
どうしよう。
涼太の合宿中も、一度考え始めるともうその事しか考えられなくなって、何度もトイレに行っては泣いて、の繰り返しだった。
考えたくもない。
でも、そればかり考えてしまう。
どうしよう。
どうし
「みわ」
キスの最中と変わらない優しい声に、ハッと意識が戻ってくる。
「涼太……」
「みわ、今は眠って。ストレスが一番良くないっスから、ね」
するすると頭を撫でてくれる手は、変わらず優しい。
「うん……」
「……怖い、っスよね」
「……こわい……」
自分の身体なのに、何が起きているのか分からないなんて。
「大丈夫、みわ。その時には、ふたりで考えよう。何度も言うっスよ。ひとりで抱え込まないで。約束して」
「……う、ん……」
目の前が滲んで、涼太の顔がよく見えない。
「今晩は一緒に居るから」
「っ、ダメ……練習、が」
「うん、明日は昼から練習だから、こっから行くっス。それならいいでしょ」
ホラ、と言って指差した先には、大きなボストンバッグ。
恐らく、バッシュや着替えなどが入っているんだろう。
涼太は、最初から今日は朝まで一緒に居てくれるつもりだったんだ。
結局、涼太に甘えて……抱き合って、寝た。