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【黒バス:R18】解れゆくこころ

第74章 惑乱


それが、涼太の指だと気がついたのは、数秒後のこと。

さっきと、同じだ……

「みわ」

「っ、は、はい」

そのとろけるような声に驚いて、どもった。

指が、下唇をなぞる。
右、左、右。

そのたびにぞく、ぞくと背筋を正体不明の甘い痺れのような感覚が走って。

「りょ、りょう」

「ゼリー、食べるっスか?」

「っ、えっ……?」

「マンゴーゼリー。食べる?」

「あっ……うん」

すっ、とまた指が離された。

なんだ、ゼリー……

やだ、私……
今、何を期待してた?

涼太は冷蔵庫からマンゴーゼリーを取り出して、小さなカップのフタを開けた。

ふわん、と香るマンゴーのトロピカルな香り。
美味しそう。

あんな事があってから、食欲が全くなくなってしまって……美味しそう、久しぶりにそう思った。

涼太が付属のスプーンで、ひとすくい。

半透明のオレンジ色が、ぷるりと動いて艶めいている。
綺麗。
本当に、宝石みたいだ。

そのスプーンが、彼の口には向かわずに……

「みわ、あーん」

……あーん?

涼太は、満面の笑みでスプーンをこちらに向けている。

「えっ、あ、えっと」

逡巡していると、涼太はその笑顔を曇らせた。

「まだ、食べれそうになかった? 無理して食べようとしなくていいんスよ」

「あっ、違うの、そうじゃないの」

やっぱり涼太に心配はかけたくない。

「ん、はいじゃあ、あーん」

「……あー、ん」

口に入れた途端、芳醇な香りが口の中を纏って、続けて広がるのは、濃厚な甘み。

「ん、美味し……」

つるんとした喉ごしのおかげで、飲みにくい事もなく、するりと飲み込める。

「いけそ?」

「うん、凄く美味しい。涼太も食べて」

「ヤッタネ」

そう嬉しそうに言って、涼太はスプーンを私に手渡した。

……これは……
彼の願いを察して、今度は逆の立場で「あーん」。

「んんん、ウマい」

「でしょう? 嬉しいお土産ばかり、ありがとう」

また、笑顔の花が咲いた。

お喋りしながら、食べさせあって。
小さなカップは、あっという間に空になった。


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