第74章 惑乱
「これこれ」
しりりん、優しい音。
涼太が取り出したのは、赤い、お猿さんの顔が書いてある鈴だった。
「可愛い!」
「これね、なんつったっけな、なんかの猿がオスで……」
「なんかの猿がオス……? こういう物で、性別まで決まってるのって珍しいね。メスは顔が違うの?」
「いやいや、そーじゃないんスよ、魔除けなんだって。"苦難"だか"困難"だかが寄り付かないようにするみたいなそんなコト言ってたんスけど、なんだったっけな……」
「お店のひとに教えて貰ったの?」
「ううん、地元のヒトがすんげぇ親切でさ、彼女が体調悪いって言ったら、くれたんスよ」
「ええっ?」
地元のひとが……くれたって……
さ、流石涼太……どこに行っても、初めて会ったひとでも、魅了しちゃう。
「ああ、そうそう! 思い出したっスわ! 南の男の猿で、南男猿! 南男猿っス!」
「南男猿……なんおさる…なんを、さる……
"難を去る"にかけてるってこと?」
「なんで分かるんスか」
「さっき言ってたよね、"苦難"とか"困難"が寄り付かないようにって……だからそうなのかなって」
「さすがっスね〜、その通り! あとはね、オススメされたコレと〜」
テーブルの上に置かれたのは……ゼリー?
袋には、マンゴーゼリーと書かれている。
つやつやとしたそれは、まるで宝石みたい。
きらきら、きらきら。
「宮崎の太陽みたいって、言ってたっスよ。
確かにこんな感じだったっス、すげえ存在感っていうか!」
そっか……宮崎の太陽も、こんな感じなんだ。
それを言うなら、涼太だって……太陽……みたいだなって、思ってる。
皆を照らしてくれるあったかさ。
どこに居ても主役の存在感。
眩しすぎて、直視は出来ないけれど。
でも、いつもそこにあって。
「一晩冷蔵庫で冷やして来たんスよ。食べるまで、ここの冷蔵庫入れさせて」
「あ、うん」
冷蔵庫にゼリーを入れようと、しゃがんだ涼太の髪がさらり、踊った。
私のこころも、躍っていた。