第74章 惑乱
涼太は、宮崎がとても気に入ったようで、合宿の出来事を話す様は、まるで子どもがお母さんに、その日あった事を報告するかのようだった。
……でも、聞いているだけでワクワクする。
知らない土地の、知らない話。
「もうさ、空港もすげーんスよ、植物もいっぱいあってさ」
「空港の中に?」
「そ、空港の中に! なんかね、海外旅行に行った気分だったっスわ、だって街の中にヤシの木が生えてるんスよ?!」
「ヤシの木って……あの、ハワイとかにありそうな」
「そう! でしょ! 海外っぽいっしょ!
でもさ、日本なんスよ、あー全然うまく言えねぇスわ、とにかく景色がスゴくてさあ、南国、南国だった!」
「暖かいって言ってたよね?」
「うん、こっちよりは全然。でも正直、もっとあったかいかと思ってた。半袖Tシャツは流石に無理だったっスわ。普通に冬だった」
半袖Tシャツ!?
いやいや、ちょっと暖かく感じるくらいで、コートがなきゃ寒いんじゃないの!?
でも、目の前の涼太は体調を崩している様子はない。
「そ、それは極端すぎる気が……風邪引かなかった?」
「はは、笠松センパイにも怒られたっス。バサーッてウィンドブレーカー投げ渡されて。
腕が短くてキツいって言ったら、更にシバかれた」
2人のやり取りが目に浮かんで、笑いが止まらない。
「朝はさ、海岸沿いを走るんスよ。途中、おっきな橋があってさ、左右海なの。もーね、何にも遮るモンがなくて、絶景!」
長い手を大きく広げて、満面の笑み。
「それにね、海の近くだったからか、温泉がしょっぱくて。なんか不思議だったっス」
「へえ……そんな違いがあるんだね、凄い」
「夜はさ……ヤシの木のシルエットが夜空をバックに浮かんで、真ん中にまんまるい月が出ててさ……あー、みわが隣に居ればなって……ずっと思ってた」
そう言って遠くを見る目は、とっても優しくて。
……好き。
「後は、とにかく行く所行く所で、ヒトが皆優しくてさ。やっぱ東京とは違うんだなって、驚いたっスわ」
そう言いながら、涼太は紙袋を手に取った。
しりりん、さっきも聞こえた鈴の音。
「あ、その音、何の音?」