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【黒バス:R18】解れゆくこころ

第74章 惑乱


「じゃ、また明日ね」

電話が終わっても、まだ顔の緩みはおさまらない。

声は元気だったけど、体調はどうだろうか。
ゆっくり話をしたい。

好きで、好きで、どうしようもない。
今すぐ、会いたい。

胸の中がどうしようもなくジンジンと疼いてしまい、切り替えようと頭を左右にプルプル振っていると、トントン、と軽く左肩を叩かれる感触。

「やっぱ、会えた! もう1回会いたくて、探してたとこやった」

振り向くと、そこに居たのは先ほどオレを助けてくれた女性の姿。

「あ、さっきの! さっきはホントに、ありがとうございました!」

「でも、急いでるって言ってたよね? まさかの置いてきぼりね?」

ふふ、と笑う姿が可愛らしい。

彼女の言葉は宮崎弁、なんだろう。
語尾が上がったイントネーションは、標準語に慣れた耳には新鮮。

バリバリのキャリアウーマンみたいで、それでいてあったかい母親のような、頼りになるねーちゃんのような。

でも年齢はわからない。
女性はホントに、年齢不詳だ。

「いや、フライトの時間、間違ってたらしいんス」

「そうやったとね。でもちょうど良かった!」

彼女は、手に持っていたビニール袋に手を入れ、ガサガサと一通りかき混ぜてから、赤くて小さい何かを取り出した。

しりりん、あったかいような、涼しげなような、不思議な音。
その手に持っているのは……鈴?

赤い……サルの顔が書いてある鈴。

「これね、南の男の猿って書いて、"南男猿(なんおさる)"っていう、民芸品やっちゃけど」

「なんおさる……?」

ちょっとシワの入った赤い実の真ん中に、サルの顔。
愛嬌がある鈴だ。

「そ、『苦難』とかの『難を去る』という言葉ともかかってて、魔除けとかお守りとも言われるとよ。
持っている時に鈴が鳴ったら、ちょこっと幸せが訪れる、みたいなね」

しりりん、再び鳴る音。
今、幸せが訪れてる、ってこと?

難を、去る……。

「へえ、面白いっスね」




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