第74章 惑乱
キョロキョロと土産店の外でペンギンのように首を振るオレに、背後から優しい声がかけられた。
「なにか探してます?」
その、柔らかくもピンと張りのある声。
オレのこと?と、ゆるりと振り返ると、女性が笑顔で佇んでいた。
あ、多分このヒト、地元のヒトだ。
手にはキャリーケース。でもきっと、旅行者ではなく、宮崎に帰ってきたんだろう。
声をかけられた時のイントネーションも、標準語のそれとは僅かに違う。
その女性のもつ不思議な空気に吸い寄せられて、オレはつい、頼ってしまった。
それはホントに、直感。
「スンマセン、ちょっといいっスか?」
「私でお役にたてるなら!」
良かった、やっぱり感じのいいヒトだ。
「オレ、宮崎のこと、全然知らなくて。
大切なコにお土産買おうと思ってるんス。
彼女、今ちょっと体調が悪くて、上手く食事が出来ないんスよね……なんか、オススメとかあったら教えて貰えませんか?」
突然こんな質問したら、ドン引きだろうか。
でも、オレも切羽詰まってる。
「そしたら、マンゴーゼリーとかいいかもしれんね」
彼女は、笑顔で答えてくれた。
ホッとして、自分の表情も緩むのが分かる。
「あ、マンゴー、有名っスよね」
「宮崎のマンゴーはほんとに、おいしいよ! でも、オススメのヤツは高いし、だいたい、冬は売っちょらんからね……」
「そうなんスか……残念だけどいいっス、それはまた2人で来た時に買うんで名前だけ教えてください!」
「ゼリーなら、持って帰るのも簡単やし……つやつやしたオレンジ色が宮崎の太陽みたいでね、多分、病室は白ばっかりやろうから、光がパーッと差したみたいな感じになるはず!」
彼女が手に取ったマンゴーゼリーのパッケージの中には、つやめく鮮やかなオレンジ色が、まるで花壇に咲く花のように眩しく色づいていた。
「すげ、キレーっスね」
「ほら、寒い冬を忘れそうなくらい、あったかーいオレンジ色やろ? これやったら、お土産話も弾むと思うわあ」
……みわの凍った気持ちも、溶かしてくれるかな。
このヒトの言葉は、なんてあったかいんだろう。
方言の持つチカラもあるんだろうけど、これは"言霊"だ。
優しい、愛に満ちた言葉。
突然話しかけたオレにも、顔も見たことのないみわにも向けられた、愛。