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【黒バス:R18】解れゆくこころ

第74章 惑乱


キョロキョロと土産店の外でペンギンのように首を振るオレに、背後から優しい声がかけられた。

「なにか探してます?」

その、柔らかくもピンと張りのある声。
オレのこと?と、ゆるりと振り返ると、女性が笑顔で佇んでいた。

あ、多分このヒト、地元のヒトだ。

手にはキャリーケース。でもきっと、旅行者ではなく、宮崎に帰ってきたんだろう。
声をかけられた時のイントネーションも、標準語のそれとは僅かに違う。

その女性のもつ不思議な空気に吸い寄せられて、オレはつい、頼ってしまった。

それはホントに、直感。

「スンマセン、ちょっといいっスか?」

「私でお役にたてるなら!」

良かった、やっぱり感じのいいヒトだ。

「オレ、宮崎のこと、全然知らなくて。
大切なコにお土産買おうと思ってるんス。
彼女、今ちょっと体調が悪くて、上手く食事が出来ないんスよね……なんか、オススメとかあったら教えて貰えませんか?」

突然こんな質問したら、ドン引きだろうか。
でも、オレも切羽詰まってる。

「そしたら、マンゴーゼリーとかいいかもしれんね」

彼女は、笑顔で答えてくれた。
ホッとして、自分の表情も緩むのが分かる。

「あ、マンゴー、有名っスよね」

「宮崎のマンゴーはほんとに、おいしいよ!  でも、オススメのヤツは高いし、だいたい、冬は売っちょらんからね……」

「そうなんスか……残念だけどいいっス、それはまた2人で来た時に買うんで名前だけ教えてください!」

「ゼリーなら、持って帰るのも簡単やし……つやつやしたオレンジ色が宮崎の太陽みたいでね、多分、病室は白ばっかりやろうから、光がパーッと差したみたいな感じになるはず!」

彼女が手に取ったマンゴーゼリーのパッケージの中には、つやめく鮮やかなオレンジ色が、まるで花壇に咲く花のように眩しく色づいていた。

「すげ、キレーっスね」

「ほら、寒い冬を忘れそうなくらい、あったかーいオレンジ色やろ? これやったら、お土産話も弾むと思うわあ」

……みわの凍った気持ちも、溶かしてくれるかな。

このヒトの言葉は、なんてあったかいんだろう。

方言の持つチカラもあるんだろうけど、これは"言霊"だ。
優しい、愛に満ちた言葉。

突然話しかけたオレにも、顔も見たことのないみわにも向けられた、愛。


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