第74章 惑乱
「……スンマセン。ありがとうございます」
このヒトからも、まだ教わることだらけだ。
この背中から、沢山のものを。
「オマエはさ、意外に繊細なんだから、余計な事で頭ん中グチャグチャにしてんじゃねーぞ」
「……うす」
意外に、ってなんスかセンパイ……
こんなガラスのハートの後輩に向けて……
そんな事言ったらまた蹴りが飛んできそうだ。
やめとこ。
「はは、本当に笠松は黄瀬の事が好きだな」
小堀センパイのその発言に、ピシッと音を立てたかのように、笠松センパイが固まった。
「小堀、気色悪い事言うんじゃねーよ」
「本当の事だろ? 笠松も森山も黄瀬の事が大好きだからなあ。ま、俺もか」
はは、と笑いを添えて、脱衣所へ入っていく小堀センパイ。
まだウジウジ悩んでいた頭をパシンとはたいて、オレもセンパイに続いた。
……このあったかさが、ありがたかった。
この日は、あまりよく眠れていなかったせいか、布団に入るなり即寝てしまったらしく、全く記憶がない。
そこから連日、朝の自主トレから始まって、1日バスケに費やすという日々を繰り返し……
気がつけば、今日はもう神奈川へ帰る日だ。
「お土産買ってかないとっスね」
「ま、時間もたっぷりあるしな」
そんな風に言っていたのに、まさかの事故渋滞で空港までの道が大混雑し、お土産選びに費やせる時間があれよあれよという間になくなってしまった。
ヤバイ。
下調べをする余裕すらなかった日々。
何を買えばいいのか見当もつかない。
とりあえず先に実家・海常バスケ部・赤司っち・みわのお祖母さんなどなどへのお土産を選んで次々とカゴに入れる。
みわへのお土産……何にしよう。
みわの事だ、遊びじゃないんだからお土産はいらないと言われそうだけど、ここはオレもひけない。
記念に残るもの?
いや、またふたりで来るんだし、残らないもの?
でもみわは食事が出来ない状態だし……キーホルダー?
いや、こんなに山ほどある中から何を基準にすればいいんだ?
ああもう!