第74章 惑乱
「出たよ、この子の天然発言」
「えーっ、天然じゃないよ!」
驚いたように、照れたように、困ったようにと、くるくる表情が変わる。
「天然の子は、皆そう言うんだって! だって、どこが強いのよ、好きな人の好きなトコも言えないなんてさあ」
「そうじゃなくて……どこそこが好きって、じゃあその好きな部分がなくなったら、好きじゃなくなっちゃうの? 違うよね?」
「んー、それはまた別の話じゃない? どこが好きかも言えないなんて、ヘンだって!」
多分一生噛み合わないであろう会話。
まあ多分、このオネーサンたちは、オレの見てくれが好きになって、もし付き合ったとしてもオレが激太りしたらソッコー別れるんだろうな。
その程度だと、今の時点で分かる。
「……"好き"って、そういうことじゃないよ」
伏せた瞳に、もしかして泣く?なんて焦っていたら、彼女はふんわりと微笑んだ。
みわの、幸せそうな笑顔が脳裏に浮かんだ。
ああ、多分このヒトにも、大切なヒトがいるんだ。
オレも、こんな風に笑ってんのかな。
「さっきは、すみませんでした」
宴会場での集まりはようやくおひらきになり、少し外の風に当たりに、正面玄関を出たところのベンチで座っていると、さっきの彼女がやってきた。
既にあちらこちらの電気は消灯されており、補助灯のようなものがぼんやりとあたりを照らして、なんだか幻想的。
「何も知らないのに、知ったような事ばかり言って」
ペコペコと頭を下げる姿も、みわとなんだか重なって。
さっきから、このヒトを見るたびにみわに会いたくなる。
「いいんスよ、別に気にしてないんで。オレも同じ事思ってたし」
「彼女さん、いいですね……こんな風に想って貰えて」
おや?
「彼氏とケンカでもしたんスか?」
「かっ、彼氏!? いません、いません!」
「あれ? そうなんスか? オレはてっきり」
「かたっ、片想い中です! 付き合ってるとか、そーゆーんじゃないですから……!」
へえ、意外。
あんな風に想われてたら、相手も幸せっスねえ。
「オイ黄瀬」
彼女の後ろから、聞き慣れたその声。