第74章 惑乱
目が覚めると、いつもの寮のベッドの上だった。
……あまりよく、眠れなかった。
みわは、眠れただろうか。
今日から合宿だ。
場所は、関東から遠く離れた宮崎県。
この寒い時期に、南国での合宿は気温的にも最適なんだろう。
空港に向かう際、何度もスマートフォンを確認したが、みわからの連絡はなかった。
みわの性格だ、合宿に集中しろと、きっと気を遣っているのだと思う。
行ってきますと、それだけメッセージを送っておいた。
降り着いた宮崎の地は、空気自体が住み慣れた東京や神奈川のそれとは違い、どこか別世界に来たようで。
空の色が違う。
ポストカードを見てるみたいだな、と思った。
部員たちは、厳しい練習の日々とは分かっていても、浮き足立つのを抑えきれていなかった。
現地に着くと全員で軽く挨拶を済ませて、すぐに体育館への移動。
場所は運動公園の中にある体育館で、ベージュの建物が真っ青な空の中に浮かび上がっているようで、キレイだった。
みわを、連れてきてあげたい。
きっと、食べ物も美味いものばかりだろう。
宿泊場所は、体育館から徒歩ですぐのところにある、地元密着型のホテル。
部屋割りは既に決まっており、和室に5人組で泊まる形式になっていた。
「黄瀬、行くぞ」
練習も終わって、荷物をまとめてからメシの前にひと風呂……なんて思っていると、笠松センパイが呼びに来た。
「え? オレ風呂に入ろうと思ったんスけど……」
「何寝惚けた事言ってんだ。そんなのアトだアト。とにかく行くぞ」
そう言われて強く腕を引かれ、辿り着いたのは宴会場。
そこでは既に、センパイたちが出来上がっていた。
「ゲ……なんスか、これ」
「後輩はお酌して回んだよ。オマエ未成年なんだから、飲まされんなよ」
笠松センパイは、テーブルの端に置いてあるビール瓶を手にし、酔っ払いの一団に突入。
コップを手渡され、注いだり注がれたり。
……そっか、センパイってもう……成人したのか……
不思議な気持ちになっていると、ポケットに入れているスマートフォンが振動し出した。