第74章 惑乱
病室に戻ったみわは気丈に振る舞ってはいたが、その顔には疲労の色が濃く出ていた。
カウンセリング。
"とか"と言っていたから、カウンセリングに限らず、そういうものを受けてみようという事だろう。
みわの気持ちが、前を向いた。
でも、事件の事を思い出しながら話す事が、どれだけの負担になるのだろうか。
みわはまだ、警察の事情聴取すらまともに応対出来ていない。
先日から警察の人間が病室に来て(スーツではなく、カジュアルな服装で来て貰うようにしてある)話を聞こうとしても、みわは取り乱してしまい、とても話が出来る状態ではなかった。
本当に本当に、無理だけはしないで欲しい。
でも、みわがようやく出来たこの決断は、絶対に彼女を前進させる。
あの強い瞳が、そう断言させるんだ。
オレも、みわが迷った時の道しるべになれますように。
「涼太……準備、しなきゃでしょう。遅くならないうちに家に戻った方が、いいよ」
少し長めの合宿だ。
必然的に荷物も多くなる。
「うん……そうさせて貰うっス」
「私は、大丈夫だから」
ベッドの中のみわは、ふんわりと微笑んでいる。
まるで、そのまま水に溶けていなくなってしまいそうな、そんな儚さ。
もう一度だけ、暫く会えないんスから、と、こころの中で言い訳して再びみわを抱きしめた。
「みわ、大丈夫じゃなくていいから。辛くなったら、何時でもいいから電話して」
「……うん、ありがとう……」
みわの手は、震えていた。
病院を出ると、スマートフォンを取り出し、まずは赤司っちに連絡をした。
「あ、モシモシ赤司っち? オレさ、明日から……合宿、なんスよ。……うん、うん、そーなんスわ……ん、アリガト」
頼もしい友人。
彼には何から何までお世話になってしまっている。
続いて、笠松センパイに。
「黄瀬っス。今日は……ありがとうございました。明日、行きます。……ハイ、ハイ、……ハイ」
"寝坊すんじゃねーぞ"いつものぶっきらぼうな物言いが、すごくあたたかかった。