第74章 惑乱
「まぁ、俺が無理矢理合宿に連れてったって、そんな状態じゃ使い物にならねーだろ。
オマエの気持ちが整理出来たら、来い。
このままやめますだけはナシだからな」
「……ハイ」
もう、頷くしかなかった。
センパイの言う事に納得できて……しまったから。
「神崎も、……俺は男だし……聞くくらいしかしてやれないかもしれねーけど、悩んだら相談しろ」
「……はい」
みわは、センパイにどこまで話したのだろう。
簡単にヒトに話せるような事でも、そんな状態でもないはずなのに、オレのせいで事情を話さなければならなくなったんだろう。
「オマエら、勘違いしそうだから言っておくが、さっきの言葉は"ひとりで背負い込め"って言ってるわけじゃないからな。
相手に依存しすぎるな、って事だ」
さっきからセンパイは小難しいことばかり言っているけど、不思議とその言葉はすんなりと耳に入ってくる。
「んじゃな」
「……あっ、ありがとうございます!」
センパイがあんまりにもアッサリ出口へと向かっていくもんだから呆気に取られてしまったオレら。彼の背を追うように、みわの挨拶が飛んだ。
センパイは振り向かず、ひらひらと手を振っていた。
……お互いを、見過ぎ、か……
ちらり、みわを見やると、彼女は息を弾ませて地面へペタリと座り込んでいる。
「あーもうみわ、冷えるっスよ」
両わきに手を入れて、まるで子どもを抱く時のように、その身体を持ち上げた。
「ご、ごめんなさ……
……あり、がとう」
ハッと気が付いて、言い直した言葉。
ありがとう。
そう、オレには謝らないで。
"涼太は……私の、希望だから"
オレは、彼女の希望になれているのか?
こんな状態になってでも、そのこころの中に光は届くのか?
オレが前を走ることで、ふたりで前を向いて走れるのか?
確証なんかない。
でも……
「みわ」
とにかく今は、細く、冷えた身体を強く抱きしめた。