第74章 惑乱
「黄瀬」
オレも、みわから受け取ったスポーツドリンクを飲み干していると、センパイが硬い表情でこちらを見ている。
「……なんスか」
「やめる事が、償いになるわけじゃねえぞ」
ビクリ、身体が強張るのが自分でも分かる。
「なん、スか……」
「オマエがバスケやめるって言ってんのは、神崎の為なんかじゃねえ。償っているつもりになって、神崎の為になんかしてるって思い込んで、ラクになりたいからだろ」
「……」
言葉が、出ない。
センパイは、センパイが2年生の時の夏のインターハイ、パスミスが原因で初戦敗退した時にバスケ部をやめるつもりだったという。
しかし、だからこそ主将はお前だと、監督から言われたって……
その時とおんなじって、言いたいんスか?
でも……
「オマエは、神崎の気持ち、分かってんのかよ」
……みわの、気持ち……?
「分かってるっスよ」
分かってるっスよ、分かってる。
「分かってねーよ。神崎が、そんな事望んでると思ってんのかよ」
「そんな事……!?」
みわの近くでみわを支えたいと思うのが、"そんな事"なのか?
みわだって、ひとりぼっちで戦える訳がない。
オレが、支えなきゃ。
「でも」
「オイ神崎、お前も黄瀬に言いたい事、あんだろ」
気付けばみわは、オレたちのすぐそばにいた。
さっき、スポーツドリンクを渡してくれてから、ベンチに座っていたと思ったのに。
みわは、スリッパをぺたぺたと鳴らして、ゴール下まで歩いて行った。
ピタリ、ある地点で下を向く。
「ここ、です」
「……何スか?」
「涼太が、基本のレイアップの時に踏み切る場所」
……
…………?
「ん? 確かに、そこで踏み切るのが一番楽っスけど……?」
みわは、またぺたぺたと足を進め、ダンクならここ、スリーポイントならここ……オレが一番得意な場所を、歩き回った。