第74章 惑乱
「……なん、で……」
なんで?
なんで、みわが知ってんの?
絶対に悟られないようにしてたつもりなのに。
そこまで考えてから、ひとつの可能性に気付く。
センパイが、みわに連絡を取った?
っていうのが、一番シンプルな予想。
いやでも、みわとずっと一緒にいたけど、外部と連絡を取っている様子なんてなかったし、そもそもそんな風に理性的な行動ができる精神状態じゃないはず。
でも、それじゃあなんで……
「小堀先輩から、連絡頂いたの」
予想を即座に肯定されて、驚きを隠せない。
「も、もー……センパイ、なんでみわに連絡すんだよ……」
いや、よく考えれば当たり前だ。
センパイたちの在学中から、オレたちは常にふたり一緒に行動してたし。
センパイたちだって、"黄瀬といえば神崎、神崎といえば黄瀬だろ"なんて言ってた事もあったじゃないか。
そんな、"よく考えればそんな当たり前"の事が見えなくなっていたのだと気付き、愕然とした。
冷静さを欠いていたのは、誰だ。
「合宿に行って、涼太。私も、頑張るから」
「そ……んな、の」
だって、合宿なんかに行ったら、次に会えるのは卒業式っスよ?
卒業式終わったら、もう新生活まで時間もないんスよ?
そんなの、許されるわけないじゃないスか。
みわがこんなに苦しんでるのに。
みわの力になれるのはオレしかいないのに。
オレが、助けてあげられなかったせいなのに。
「涼太……お願い。これ以上、自分を責めないで」
ひやり、冷たいみわの手がオレの手に触れた。
自分を責めてるのは、みわだろ。
辛い思いをしてるのも、みわだ。
全部、オレのせいで。
「涼太」
「オレの……せいなのに、のうのうと好きな事だけやれるわけ……ないじゃねえスか……」
「涼太……来て」
温度の上がらない手に導かれ、辿り着いたのは屋上庭園だった。