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【黒バス:R18】解れゆくこころ

第74章 惑乱


「……ありがとう、涼太」

みわは、またふわりと微笑んで、それ以上何も言わなかった。

「ん、みわの気が済んだなら」

オレたちは約束通り、病室に戻ろうと、屋上を後にした。



絨毯張りの廊下を歩いていると、正面からスーツ姿の男性が歩いてくる。

ここに居て、初めて看護師以外の人間に会ったな、なんて特に気にせずいたけれども……

よく見ると、見覚えのある人物だった。

「……おや、黄瀬涼太君かい? こんな所で会うとは、奇遇だね」

「どもっス」

とある芸能プロダクションでマネージャーとして働いている男だ。
売り出したいタレントをゴリ押しする事務所と有名で、関係者からは大層嫌われていた。

ということは、担当するアイドルかなんかが入院しているのだろうか。

「最近またモデルの仕事も少しずつ始めたみたいだね。お隣は彼女さんかな?」

「……あー、ハハ」

何度かモデルの現場で顔を合わせた事があるくらいで、特別親密なワケでもない。

詮索するようなその物言いが気に食わない。
相手にするのはやめて、軽く挨拶だけしてすれ違った。

みわを好奇の目にさらしたくなかった。



「みわ、……どしたんスか?」

気付けばみわは、オレの後ろに隠れていた。

「な、なんでも、ない……」

袖を掴んでいる手は震えている。
先ほどまでとはうって変わって、顔は蒼白い。

聞けば、スーツ姿の男性に恐怖を覚えたという。
一般的なサラリーマンの戦闘服であるスーツが怖いとなると、尚更外になど出れない気がして、また心配になった。

「もう行ったから、ヘイキっスよ。大丈夫? 歩ける?」

「うん、もう平気。ごめんなさい」

何度もごめんなさいと謝るみわを支えながら、病室へと戻った。


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