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【黒バス:R18】解れゆくこころ

第74章 惑乱


カラカラと点滴のスタンドを押しながら、みわが立ち上がる。

それを助けるかのように、同時に起きた風は追い風だった。

「涼太……バスケ、練習してない……よね」

「あー、うん、まあ、そっスね」

着信履歴だらけのスマートフォンを思い出す。
メールも、メッセージアプリも、未読の数字はどんどん加算されていく一方だった。

明後日から始まる大学の合宿についての確認だろう。みわには言っていない。
連絡を依頼されていて、まだ伝えてない項目がいくつかある。

……メッセージは、見ない。
見たら、揺らいでしまうかもしれないから。

笠松センパイ、小堀センパイ、すんません。
オレ、みわを、支えなきゃ。

オレをずっと支えてくれたみわがこんなに苦しんでるのに、オレだけお気楽にバスケなんて、してらんねぇんスよ。

「涼太……」

みわが歩いた先、庭園の中にぽっかり空いた花のない空間。

そこには、見慣れたモノがそびえ立っていた。

「何で……こんなトコに、バスケゴールが……?」

バスケのゴールに、ご丁寧にカゴが置いてあり、その中にはボールまで用意されている。

「赤司さんがね、教えてくれたんだ」

そうか、赤司っちが使っていたのか。


でも。

「みわ、身体冷えるっスよ、一応屋根があるって言ってもさ。戻ろ」

今は、見たくない。

それなのに、みわはよろけながら、ボールを手に取った。

「危ないっスよ、みわ!」

「涼太……シュート、して」

ヒョイと投げられたボールを、思わずいつもの調子で受け取る。

ああ、この手に馴染む感じ。
ボールのニオイ。

「あ、ちゃんと準備運動してからね」

「みわ、バスケはいいからさ、戻ろって」
「お願い、涼太。1本だけ」

まっすぐな瞳。
なんでこんなに頑ななんだろう。

「……分かったっス。1本だけね」

「ごめんね、涼太」

「その代わり、1本終わったらすぐ戻るっスよ」

みわが頷いたのを確認して、軽く準備運動をしてから、基本のレイアップシュート。

踏み慣れたステップ。
ボールがゴールネットを揺らす音。

「ナイッシュ」

いつものみわの声。

たったシュート1本で思い知らされる。
オレにとってのバスケの存在を。


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