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【黒バス:R18】解れゆくこころ

第74章 惑乱


こくん。

白くて細く、小さな喉が上下した。
ふぅ、と小さく息を吐いて、オレを見る。

飲み物は何とか飲めるようになってきた。
後は、食事……いや、そんな急には無理だろう。
ゆっくり、ゆっくり。

「美味しい……ありがとう、涼太」

「ん、どーいたしまして」

なんか今日は、じっと見られる時間が多い気がする。
大きな目の奥にある感情を読み取ろうとしても、うまくいかない。

「涼太」

「なんスか?」

「お散歩に……行こうと思うんだけど、いいかな」

えっ?
今、なんて?

ここ数日、ベッドから下りる事もままならなかったみわの、突然の発言。

「手伝って、貰ってもいい?」

どうしたんだろう。
無理してないか?

「……モチロンっスよ!」

いいや、細かい事はどうでも。
みわが、そうしたいと言うのなら。

「車イス、借りて来ようか」

「ううん……歩きたいの」

大丈夫だろうか。
いきなり動いて、負担にならない?

「ゆっくり、歩くから……」

みわは、オレのこころの中の疑問が聞こえているかのように、そう言った。





看護師さんにすすめられて来たのは、屋上。

屋上庭園になっているここは、名前も知らない花たちで埋め尽くされていた。

オレ、みわに会うまで、花って春にしか咲かないもんかと思ってた。
こんな季節でも、沢山の花が生きている。

冷たいそよ風が吹くと、さわさわと揺れる花たちが、まるで笑っているようで。

もうすぐ、春が来る。
そうしたらここは更に華やかになるんだろうか。
みわはいつ、ここから出られるのか。

「わ……綺麗だね」

「そうっスね」

誰も座っていないベンチに腰掛けて、ふたりで深呼吸をした。

「なんか、空気が美味しいね」

「そうっスね。なんつーか、光合成してるカンジ?」

緑には確かなんか癒し効果があるんだよなっていう記憶と、昔授業で聞いたような単語を当てはめてみたのだが、みわはクスクスと笑い始めた。

「ふふっ……光合成? それじゃ植物だよう」

ころころと笑う姿を見るのは本当に久しぶりで、その笑顔を見るだけでこころに張り付いている分厚い膜が溶けていくようだった。

大好きなその笑顔を、ずっと見ていたい。
こんな状況になって、改めてそう思った。


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